家が浸水してしまいました...バルカン半島 過去最悪の洪水被害に

公開日 : 2014年05月18日
最終更新 :

ここ数週間ザグレブでも強い雨が降ったりやんだり、ぱっとしないお天気が続き、先日お伝えしたようにアドリア海沿岸部も含め強い風が吹き不安定なお天気が続いていたクロアチア。プリトヴィッツェ国立公園も洪水状態です、とお伝えしましたが、一昨日あたりからまた状況が悪化してきています。また、あまり観光に行かれる方は少ない地方ですが、クロアチアでは北東部のスラヴォニア地方などでも川が氾濫し、大変な洪水被害が広がっています。

(プリトヴィッツェは園内の川が再び増水し、下湖群も上湖群も観光できるのはごく一部となっています。遊覧船も運航中止となる可能性もあり、歩いて観光できる箇所も泥で足元がかなり悪い状態です。)

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クロアチアに限らず、お隣のボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビアでも大雨による洪水被害が発生。その状況はクロアチアより悪く、一部地域には非常事態宣言が発令されました。

セルビアでは「セルビア史上最悪の自然災害」と言われ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナでも史上最悪の洪水被害となりました。家や農地、車などが浸水、停電、土砂崩れも起こり何十万人もの人々が被害に遭っています。特にクロアチアのスラヴォニア地方に国境を接するボスニア・ヘルツェゴヴィナの町での被害が大きいので、近々お越しの方はじゅうぶんにご注意ください。

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数日前からニュースで「ボスニアやセルビア洪水被害がでてきている」と耳にしてから、ちょっと気になっていた今回の洪水。なぜなら、ひどく雨が降り続いている地域はうちの家があるからです。

ちょうど1年前に「国境を越えた里帰り クロアチアのお隣の国「ボスニア」へ」などでもお伝えさせていただきましたように、うちのクロアチア人ファミリーはボスニア・ヘルツェゴヴィナ出身で、今もクロアチアとボスニア・ヘルツェゴヴィナの国境沿いの小さな村に昔住んでいた家が残っているのです。その家が今回の洪水で浸水してしまいました。。。

先週の中頃からそこに住む親戚と連絡がとれず、やっと金曜日になんとか連絡がついたのですが「家の半分以上が浸水している。1階はすべて水の中、今は2階まで水が上がってきている状態...すべてがめちゃくちゃだ」という大惨事です。この地域一帯にはたくさんの親戚が住んでおり、親戚のほぼ全員の家が浸水被害に遭ってしまいました。

故郷の近郊の町シャーマッツの様子の動画 :

Poplava Šamac/Floods Šamac/Republika Srpska/Bosna/Bosnia (2014)

Dramaticne slike poplave u Bosanskom samcu 17.5.2014

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彼のお母さんはあまりにものショックに事態を知った金曜日は、一日中泣いていました。。。

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彼らが現在ザグレブに住むようになった理由はユーゴスラビア内戦でした。

「ボスニアの小さな街に残るユーゴスラビアの影」でもお伝えしたように、クロアチア人、セルビア人が隣り合わせで生活をしているこのあたりの町や村も戦争に巻き込まれました。

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以前にどこかでふれたかも知れませんが、彼の父はセルビア人、母はクロアチア人、彼も含め家族全員生まれはボスニア・ヘルツェゴヴィナなのです。この町で出会った彼の両親は一部周囲の保守的な家族から「クロアチア人と結婚するなんて」「セルビア人と結婚するなんて」とお互いに反対されながらも結婚。2人で小さなお店を経営して、子供も生まれ家族一緒に幸せに暮らしていましたが、戦争でたくさんのものを失ってしまいました。

戦争で失ったものは物質的なものだけではなく、お父さんも戦争で命を落してしまいました。住んでいた家があるのはセルビア人居住区。戦闘が激しくなり、家に向かって銃弾が打ち込まれるように。

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周りはセルビア人だらけのこの家に、セルビア人の夫を亡くしたクロアチア人女性が住み続けることに命の危険を感じ、ろくな荷物も持たずに命からがら子供2人を連れてドイツまで逃げました。約6年ドイツで必死に働き、内戦が終わりドイツを離れ故郷のボスニアに帰ってみたものの、彼女が生まれ育った両親の家は無残にも破壊され、家族で暮らしていた家は無事に残っていたものの村に働き口がなく、ザグレブへ住んでいる妹を頼りにして引っ越してきたのです。

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でも「あと数年で定年をむかえたら、またあの家で暮らしたい。庭で野菜を育てて、にわとりを飼って、のんびりと生活するのが私の夢。おいしい野菜をいっぱい育てて、ザグレブにいるあなたたちに送ってあげるわね。」と何度も嬉しそうに話してくれました。それに、夏が近づきお母さんは「いつボスニアへ帰ろうか。また庭のプラムを収穫できるのが楽しみね。今年もプラムジャムを一緒に作りましょうね!」と嬉しそうに夏休みの予定を考えていた矢先、今回の災害が発生し、家が浸水してしまったのです。

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家の中には亡くなった旦那さんとの思い出の品や大切な家具など、思い出がたくさん詰まったものがたくさんありますが、きっとぜんぶ水浸しで、ひょっとすると家の中から流れ出てしまったかもしれません。彼の子供時代の思い出の品も全部水に浸かってしまいました。

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一番の気がかりはお父さんや家族が眠るお墓です。墓地がある所も恐らく浸水していると思われますが、どんな状況なのか知る由もありません。

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「もう全部なくなってしまった。ボスニアのものは全部なくなってしまった。」と泣き崩れるお母さんを横に、「あの家を戦争ではなく洪水で失うとは思っていなかった」とポツリとつぶやく彼。顔を泣きはらすお母さんとがっくりと肩を落す家族を前に、肩を抱く以外にかける言葉が見つかりませんでした。

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今までこのような自然災害のニュースを見聞きしても、心は痛むものの、やはり「遠くの土地で起こっていること」と実感に欠けていた私ですが、こんな身近で起ころうとは想像していませんでした。皆「今までこんなことはニュースの中の出来事で、自分たちに起ころうとは夢にも思っていなかった」と口をそろえています。

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被害に遭った町では水道もストップしてしまい、電気もなく、水も食料も限られた中、周りを水に囲まれ孤立してしまった家で救助を待っています。政府や軍も全力で救助活動を行っているそうですが、彼の親戚・家族が暮らす村では救助隊の数が不足しており、家で孤立している人がたくさんいます。

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事態を知って2日。今すぐにでもボスニアの家に帰りたいところですが、家のある町につながるクロアチアとボスニア・ヘルツェゴヴィナの国境は洪水で閉鎖されてしまい行くこともできません。それに行ったとしても車も浸水してしまう程ひどい状態なので、なすすべがありません。幸い、家族も友達もみんな無事というのが唯一の救いです。

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(ボスニアの実家。今は家の半分以上が水の中です・・・。)

金曜日は1日中泣いていたお母さんですが「泣いてもしかたない・・・とにかく事態が収まったら、行ってあと片付けをするしかない。戦争が終わってもボスニアのあの家で暮らすことができなかったことをずっと残念に思っていたけれど、今から思えばザグレブに来てよかった。でなきゃ、今頃は本当にすべてを失うことになっていたんだもの・・・。まだここに家があるだけ有難いと思わないと。」と気持ちの入れ替えが早く強い心に、ただただ感服しています。

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毎日テレビで洪水の状況を確認することしかできませんが、事態が収まってきたらすぐにでも家族みんなでボスニアの家に向かって、今からでも思い出の品を救えるものは救いたいと思っています。

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動画はセルビアのReka Kolubaraの様子。

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こちらの動画はクロアチア国内のニュースでも何度も放映されたボスニア・ヘルツェゴヴィナのヴォゴシュチャの様子。雨により地すべりが起こり、家が崩れてしまう大被害が起こりました。

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現在はクロアチアのスラヴォニア地方の一部でも被害が拡大している状況ですが、全体的に事態は徐々に良くなってきてはいるようです。ですが、今後どういった状況になるかわかりませんので、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ北部やセルビアを近日ご旅行される予定の方は、どうかお気をつけください。またボスニアの首都サラエボを流れる川も含め、クロアチア、ヘルツェゴヴィナ、セルビアなどバルカン半島諸国では洪水被害のない町でも、現在川が増水していますので、川にはできるだけ近づかず、近くを歩く際は十分にお気をつけください。

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また最初にお伝えさせていただいたように、クロアチアのプリトヴィッツェ国立公園を流れる川も増水して、観光をするにはかなり悪い状態です。もし予定の変更が可能であればプリトヴィッツェの観光を中止して他の町を観光することをおすすめしますが、近々観光をご予定の方は安全を第一に、決して立ち入り禁止区域には入らず、公園側の指示に従って観光してください。

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