No.182【コラム】フランス北部を形作るもの:世界遺産登録3年を祝う炭鉱地帯

公開日 : 2015年06月21日
最終更新 :
筆者 : 冠 ゆき

 観光情報からもう少し踏み込んだものを【コラム】と名づけて不定期に投稿しています。基本的にフランス北部の文化に深く関わる歴史や出来事を取り上げています。今日はそのうちフランス北部の炭鉱地帯について、大まかなラインを記したいと思います。

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 パリからフランス北部へ車移動する場合、大抵、高速道路A1を通ることになる。A1は、フランスで最も初期に建設された高速道路のひとつで、パリとリールを211キロメートルで結ぶ。1950年に始まった工事が終わったのは1967年のこと。ずっと後に開通したTGV線も、中間部分は、ほぼこのA1に寄り添うようにして敷かれている。

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北へ向かうA1

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高速道路に並行して走るユーロスター

 パリを離れ、目立つカーブもなく、まっすぐ北へと伸びるこのA1を走っていくと、わずかにあった土地の起伏もどんどん減り、広い野をまっすぐに駆け抜けるような心持がしてくる。

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A1から見た地平線

 ピカルディー地方からノール・パドカレー地方に入り、平らな眺めに慣れたころ、二等辺三角形のような黒々とした山が目に入るはずだ。高速道路のすぐ横に立つその頂は、妙に不自然に見え、山と呼んで良いのか、躊躇う人もいるだろう。

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テリル

 これは、フランス語でterril(テリル)と呼ばれるもの。日本語では「ぼた山」と訳される。

つまり、この地域にある炭鉱を掘った廃土を積み上げてできた「山」なのだ。

 ノール・パドカレー地方を語るのに外せないものは、複数あるが、そのうちのひとつが、ノール・パドカレーの炭鉱地帯である。リールより少し南方を、東西に長く横たわる鉱床がそれだ。都市名で言えば、ちょうどドゥエ(Douai)、アラス(Arras)、ランス(Lens)あたりが含まれる地帯にあたる。

 最初の発見は17世紀に遡る。フランス革命以前でさえ、既に国の石炭の半分がこの炭鉱地帯から採掘されていたという。その後、1990年代にそのすべての採掘所が閉鎖されるまで、フランスで消費される石炭の大半を供給し続けたとあり、今でもこの地域には多くの炭鉱跡が見られる。

 No.16で触れたCentre historique minier de Lewarde(ルワルド炭鉱歴史センター)もその一つ。また、No.102地球の歩き方いさらサイトで紹介したルーヴル・ランス美術館が建てられたのも、実は、炭鉱跡である。

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ルワルド炭鉱歴史センター

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上空から見たルーヴル・ランス美術館。向こうにテリル(ぼた山)が見える。

 このフランス北部炭鉱地帯は、2012年6月にユネスコの世界遺産に登録された。

 今年は世界遺産登録から三年目ということで、今日6月20日から7月5日まで、多くのイヴェントが企画されている。

 そのうち、最も見ものと思われるのは、6月27日。東から西へと順に複数のテリル(ぼた山)で花火または炎が燃やされる予定。さながら、フランス北部の送り火のようなものか。

 開始時間は夜10時45分。

 下の5つのポイントから鑑賞が可能(夜遅いこともあり、移動には車が必要):

・オーレン地方公園(Parc départemental d'Ohlain) 町名:ウーダン(Houdain)

・カナダ人メモリアル(Mémorial Canadien)町名:ヴィミー(Vimy)

・島公園(Parc des îles)町名:エナン・ボーモン(Hénin-Beaumont)

・パ・ローラン見晴台(Belvédère du Pas Rolland)町名:モンサンペヴェル(Mons en Pévèle)

・パンションヴァルのぼた山( Terrils de Pinchonvalles)町名:ジヴァンシー(Givenchy)

 フランス北部炭鉱跡については、記すことが多いので、今後も少しずつまとめて、紹介していきたい。

(冠ゆき)

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これまでのコラムは下からご覧いただけます。

No.39【コラム】昨日のエリート、今日の戦犯:レジスタンス弾圧事件「覚えておくことの義務」

No.56【コラム】フランス地方紙La Voix du Nord(北の声):非合法新聞の躍進

筆者

フランス特派員

冠 ゆき

1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。

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