No.15 ベルギー王室御用達のスイーツはいかが?
皆さんは、ワッフルというと、どんなものを連想されるでしょうか。
網目の模様の入った角のないどっしりとした甘いお菓子?
それとも、網目は入っているけど、四角くて、焼き立ての熱々に、粉砂糖を振りかけて食べる軽いお菓子?
どちらもワッフルですが、実は、ワッフルというのはオランダやベルギーでの呼び名です。
では、フランス語ではなんと呼ぶでしょうか?
正解は「ゴーフル」です。
ワッフルあるいはゴーフルと呼ばれるお菓子は、鉄製の二枚の板に生地を挟んで焼くもので、古くは12世紀にその名前が記されています。14世紀の文献には、ゴーフルともワッフルとも記されていますが、フランスでは19世紀ごろから今の綴りでgaufreゴーフルと統一されました。
ゴーフルの焼き型
ベルギー、オランダ、フランス北部で主に食されるお菓子ですが、イタリアの北部にもゴーフルがあるそうです。19世紀に編まれた『現代フランス料理辞典』によると、ゴーフル発祥の地は、ベルギーのちょうど真ん中あたり、ブラバン地方だそうです。
14‐15世紀には、田舎では各家庭で作っていた庶民的な食べ物だったようですが、16世紀には、富裕な階層が、卵や砂糖を加えた贅沢なお菓子に仕立てるようになり、フランス国王フランソワ一世(1494-1547 )も目がなかったとか。
このゴーフル、実は地方によってそれぞれ特徴があります。
上記の角のないどっしりとしたものは、「リエージュのゴーフル」と呼ばれます。リエージュはベルギーの町の名前です。
リエージュのゴーフル
発酵した生地が用いられている分、しっかりとした重みがあります。中には「真珠砂糖」と呼ばれる砂糖の塊が入っています。この真珠砂糖は、リエージュ地方で最初に作られたもので、ビーツ(砂糖大根)を原料としていて、フランス・ノールの伝統的お菓子にも使われます。
もう一つの四角い形のものは、屋台でよく売っていて、熱々のものに粉砂糖を振りかけたり、ホイップクリームを乗せて食べます。こちらは、「ブリュッセルのゴーフル」です。1964年にニューヨークで開かれた万国博覧会で「ベルギーゴーフル」として宣伝されたので、ベルギーのゴーフルというと、このブリュッセルのゴーフルのほうが外国では知られているようです。
ブリュッセルのゴーフル
フランスのノール県にもゴーフルが何種類があります。イギリス対岸の町ダンケルクのゴーフルは、他と同じく格子柄の焼型で作られますが、出来上がりは、固いクッキーに似ています。大きさもずっと小さいものです。
ダンケルクのゴーフル
「リールのゴーフル」は、二枚の薄いゴーフル生地の間に砂糖やクリームを挟んだもの。ダンケルクのゴーフルと同じような大きさですが、しっとりしています。
リールのゴーフル
横から見ると
ベルギーやフランス北部では、砂糖はビーツで作られます。独特の風味のあるこの茶色い砂糖にヴァニラの香りを添えて作られた「リールのゴーフル」。その誕生は、リールの製菓店メールの手によるものでした。
リールの中心とも言うべきシャルルドゴール広場から旧市街に向かう道の入り口近くにあるのが、製菓店メールです。
1839年に改築された姿を保つこの店舗は、1761年創業。1849年よりメール名義となり、その後、1864年には、ベルギー国王レオポルド一世の正式な御用達となりました。
ショーウィンドーには、宝石のように美しいお菓子やチョコレートが並び、夏は店の前にアイスクリーム売りのスタンドも出ます。
ここで、あれ、この名前、どこかで聞いたことがあるな?と思われた方、素晴らしい記憶力です。前稿で紹介したルーベのラピシーヌ工芸美術館に入っているのが、このメールの経営する喫茶レストランなのです。
ラピシーヌ工芸美術館内の喫茶レストラン・メール
レストランメニューは、リール店とラピシーヌ店では異なりますが、ラピシーヌ店のものは、メニューも芸術的で大変ユニークですので、二、三紹介しましょう。
たとえばサラダ。
『雄鶏をつかむ農婦』(ライムとカレー風味の鶏肉サラダ、マンゴーとピーマン入り)
『牧神とニンフ』(モッツァレラ入りのトスカーナ風パンサラダ)
そしてメインの肉料理。
『赤の広場』(ビーフストロガノフと手作りピューレ)
『戦争による寡婦』(フランドル風肉の冷製テリーヌ、フライドポテト添え)
なかなか、国際的でありながら、地元の味も忘れない選択肢となっています。
メールのゴーフルは、現在五種類出ていますが、やはり最初は、名高いマダガスカルバニラ風味を試してみたいところ。リール店のほか、ラピシーヌ店でも購入可能です。パリやブリュッセルにもそれぞれ店舗が出ていますし、インターネットでの購入もできます。大きさにより6枚入りで7.5~15ユーロ。
ベルギー王室御用達の味をご賞味あれ。
また、フランス北部やベルギーにお越しの際には、是非、地方ごとに異なるゴーフル/ワッフルも、食べ比べてみてくださいね。
筆者
フランス特派員
冠 ゆき
1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。
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