26. 国内最南端・アフガニスタン国境の町、日本人考古学者ゆかりの町テルメズへ

公開日 : 2022年03月17日
最終更新 :

サローム(こんにちは)!

2022年2月某日、まだ行ったことのなかったウズベキスタン最南端の都市テルメズを旅してきました。タシケントからは直線距離で500km、夜行列車だと15時間もかかる南の果ての町。タシケントとは気候も文化も全く違い、とにかく刺激あふれる旅でした。

というわけで、2回に渡ってテルメズ旅行シリーズをお送りします。サマルカンドやブハラなどと比べると知名度も観光客数も大違いで、日本語ガイドブックにも載っていませんが、どうか行かれる方のお役に立ちますように。

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ウズベキスタン航空国内線ならタシケントから1時間半

テルメズの見所は市内の博物館などの施設と郊外の遺跡とに分かれますが、この記事では市内の観光地をご紹介しましょう。といっても観光地と呼べるような場所はわずかしかありませんが、その中でもまず寄っておきたいのはやはりテルメズ考古学博物館。入場料は一人2万5000スムでカメラ持ち込み代は別途50000スム、さらに2万スムで英語ガイドが付けられます。(が、私たちが訪問したときは英語ガイドが出払っており、付いたのはウズベク語しか話せないガイドでした......)

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テルメズを含む大河アムダリヤ流域は、中央アジアで最も温暖な気候ということもあって、かなり古くから人々が暮らしていました。この地域にエジプト、メソポタミア、インダス、中国に次ぐ第五の古代文明があったという学者もいます。

この地域が歴史の表舞台に登場するのは、かのアレキサンダー大王によって征服されたとき。それ以降セレウコス朝、グレコ・バクトリア王国、クシャーナ朝、イスラム勢力......と支配者が変わっていきました。テルメズ周辺の遺跡からは、それぞれの時代の特徴を反映するような遺物が発掘されているのです。特筆すべきは、ギリシャ・ヘレニズム文化の影響が見られる出土品や、仏像など仏教関連の出土品が多いことです。

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博物館2階ではテルメズやアムダリヤ流域の何千年にも及ぶ歴史を、貴重な出土品とともに時系列で解説
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何百年何千年も前の遺物にNew!マークとは???
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ミュージアムショップではこの地方特有のアクセサリーやドッピ(帽子)などを販売

これらの遺跡の発掘に尽力された日本人考古学者がいらっしゃいました。それが加藤九祚先生です。
もともと文化人類学者であった加藤先生は国立民族博物館を定年退職された後シルクロード遺跡の発掘調査に携わり、先生自らこの地に赴いて発掘活動を続けられてきました。そして2016年活動中に倒れ、ここテルメズの病院で逝去されたのです。

この博物館内には加藤先生の偉業を称えた部屋もあります。テルメズ名誉市民賞も受けられたとのことで、いかに地元の人々に愛されていたかが分かるでしょう。加藤先生に敬意を表して、今後テルメズ市内に日本庭園を造る計画もあるそうです。

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テルメズにはもう一つ注目すべき博物館があります。それがスルハンダリヤ文化歴史博物館。ただこの博物館は完成したのが最近のようで、日本語どころか英語やロシア語でもネット情報がほとんど出てこない始末。ここについて詳しく書いた記事はこれが世界初でしょう(笑)
こちらも入場料は2万5000スム。カメラ持込みは無料です。グーグルマップでは"Termez Davlat Muzey Qo'riqxonasi"の名称で載っています。

1階は自然関連の展示で動物の剥製などが置かれています。2階は歴史コーナーで、テルメズと国境を接するアフガニスタン関連の展示も。こちらは1982年に完成した国境の橋、アムダリヤを跨ぐアフガニスタン・ウズベキスタン友好橋の開業初日の貴重な写真です。当時のソ連の指導者ブレジネフと、アフガニスタン大統領のカルマルの顔写真が掲げられています。

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そして3階に上ったとたん目に飛び込んでくるカラフルな空間!ウズベキスタンが誇る民芸品スザニなどの刺繍が至るところに掛かっています。ここスルハンダリヤ州、特にボイスンなど北部の山岳地域はこのような伝統工芸品が盛んに作られているエリアなのです。また同じくこの地方の民族衣装や、遊牧民のテントであるユルタの実物大模型も。

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ただ惜しむらくは、この国の博物館全体にいえることですが解説が乏しく、せっかくのスザニもどこで作られ模様にどういう意味があるのか分かりづらいこと。貴重な展示品がいっぱいですし、見せ方をうまくやればスザニ愛好家の方などがたくさん訪れるようになると思うのですが......。

もう一つテルメズ市内の見所を挙げるとすれば、ロシア正教の教会である聖アレクサンドル・ネフスキー教会でしょうか。1902年に設立された、120年の歴史を誇る由緒ある教会です。上記2つの博物館とこの教会はいずれも市内中心部にあるので、徒歩でめぐることができます。
ロシア帝国時代やソ連時代でも国の辺境にあたる地域だったテルメズですが、ロシア系住民も暮らしています。かつてはユダヤ人やスターリン政権時に極東から強制移住させられた高麗人なども住んでおり、多民族都市だったとのこと。

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教会の前ではロシア系のおば様たちがお茶会をしており、快く中に入れてくれました

最後にご紹介したいのがこちらの風景。

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何てことない田園風景に見えますが、写真中央の白い物体がアフガニスタン・ウズベキスタン友好橋。そして右寄りにある建物があるのが、アフガニスタン国境の町ハイラタンなのです。友好橋はテルメズ中心部からわずか15kmの位置にあり、アフガニスタンは文字通りテルメズの目と鼻の先にあるのです。

実は私は学生時代にアフガニスタンに行ったことがあるのですが、当時は比較的治安が安定しており、滞在場所を選べばバックパッカーでも旅行することもできました。しかし国全体がタリバンの支配下となった今は、気軽に旅することはなかなか難しいでしょう。実際昨年タリバンが国全体を掌握しようとしていたときに、多くのアフガン人がこの橋を渡ってテルメズへ逃げてきたとのこと。アフガンの地が目と鼻の先にあるのに、実際に行けるのはいつになることでしょう......。

見所がよかったのはもちろんですが、タシケントと全く気候が違い、気温も湿度も一気に上がってまるで春を先取りしたような気分になれたのが印象的だったテルメズの旅。夏はウズベキスタン屈指の灼熱地帯になるとのことで、冬から春先がベストシーズンなのかもしれません。冬にウズベキスタンを旅行したいけど、できるだけ寒くない場所に行きたい......とお考えの方はテルメズを行き先の候補に入れてみては?

次回の記事(27. アレキサンダー大王も三蔵法師もやってきた!テルメズ周辺のいにしえの遺跡めぐり)ではテルメズ観光最大の見どころ、遺跡群を紹介しましたのでぜひ続けてご覧ください。
また私の個人ブログでは、この記事では載せられなかったホテルやレストランなどの観光情報を載せています。旅行計画を立てられている方はこちらもぜひご覧くださいませ!
スルハンダリヤ州・テルメズ情報! - takumiの世界ふらふら街歩き


参考文献:
加藤九祚監修『偉大なるシルクロードの遺産』キュレイターズ

筆者

ウズベキスタン特派員

伊藤 卓巳

根っからのスタン系大好き人間です。まだまだ知られていないウズベキスタンの魅力や情報を、サマルカンドより愛をこめてお伝えします!

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