[リヨン] 巨匠、ポール・ボキューズの旗艦店「もっとも大きな変革とは変わらないこと」

公開日 : 2018年06月25日
最終更新 :

今年1月に亡くなった、フランス料理界の巨匠、ポール・ボキューズ氏が最後まで過ごした場所、リヨン郊外にある旗艦店に行って来ました。

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1965年から三ツ星を保ち続けている歴史的なレストラン。ボキューズさんは、91歳で亡くなりましたが、その精神は1995年からエグゼクティブシェフを務めるGilles Reinhardtさん(2004年MOF)、2001年からヘッドシェフを務める、Olivier Couvinさん (2015年MOF)にも、受け継がれています。

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ほぼ全てのメニューが、ボキューズさんのシグネチャーです。

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アミューズは、パルメザンチーズのサブレと、グリーンピースのスープ。ミントの香り。

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大統領のために作ったという、エリゼ宮に捧げるという名物のスープは、カリッとした軽いパイの皮に包まれています。

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卵白による清澄はせずに、しばらく置いておいて、自然に分離するのを待ち、沈殿した部分を使わず、上澄みだけを使っています。

シャロレー(Charolais)牛の頬肉を使っているということで、濃厚な赤身の肉の鉄分の旨みと複雑さを感じるスープ。ローストした人参やセロリなどの野菜に、牛が食べて育つハーブの香り、ノイリー・プラットを加えた上で、さらに香りを一段上げる、角切りにしたトリュフと、脂の旨味を加えるフォワグラ。

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赤ワインはクローブやシナモンの香りを感じるローヌ産のもの。

メインディッシュは、迷った末にヒメジを選びました。

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ソースはオレンジとローズマリーの香りをつけたブールブランソースに、子牛のジュを添えて。身質の柔らかいヒメジにカリッとした皮の対比。

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添えられた野菜は、しっかり火が通して甘さを出す、昔ながらの味わい。トマトの濃い甘みと酸味が印象的。

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丸く切られたカリカリのジャガイモは、重なっている部分はしっとりとしたジャガイモのスターチ感、そしてヒメジは皮に近いところに牡蠣のような海の旨味を感じます。

そこに、アンチョビ入りのブリオッシュを添えて。これは、Olivier シェフが6ヶ月前に加えたアレンジ。

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「これまでは、フィユタージユを使っていたけれど、魚の旨味をより感じるものにしたかった。こういった小さな変化はつけても、料理全体の印象を大きく変えることはしないのです」と語ります。このアレンジは、ボキューズさんも気に入ってくれたのだそう。

チーズは残念ながら、デザートが食べられなくなりそうなので、飛ばしてもらいました。

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香り高いコアントローを使った、マジパンに包まれたガトーディポロマット、

ピスタチオのスポンジのような生地にグレープフルーツのゼリーを乗せたシャルロット、

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チョコレートの繊細な層が魅力のガトープレジデント、カリカリのピスタチオの飴がけが香ばしい、ウフ・ア・ラ・ネージュ。これは、私自身にとって、子供の頃写真で見て憧れたデザート。たくさんは食べられない、というと、上のカリカリのところだけを掬って盛り付けてくれました。カリッとした上質なナッツや飴と、ふんわりした柔らかいメレンゲの対比が想像以上に美味しくて、とても気に入りました。

フレッシュラズベリー、バニラとラズベリーのアイスクリーム。

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ラテのミルクがとても自然なバターのような香りをたっぷりと感じたのが印象的でした。実は、ミルクはデザートなど用も含めて、地元の農家から直接、週に3回運ばれてくるのだとか。美食の町・リヨンの豊かさを感じます。

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小菓子は地元・リヨンのベルナシオンのチョコレート、パート・ド・フリュイをサブレに挟んだものなど。

ヘッドシェフのOlivier Couvinさんにお話を聞きました。

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Q ここで食べられる料理は、Bocuseさんのシグネチャーばかりですね。

A はい、レシピは基本的に変えていません。ただ、細かい調整はします。食べた時の印象がガラリと変わるのではなく、少しだけ良くなっている、というのが大切だと思っています。

例えば、これまで、ヒメジのじゃがいもの鱗焼きには、これまでは(アンチョビなしの)パイを添えていましたが、ヒメジの皮目にある香りがアンチョビに似ていることから、6ヶ月前から、アンチョビ入りのブリオッシュを添えることにしました。それ以外は、何も変えていません。ブールブランのソースも、子牛のジュも、オリジナルのレシピのままです。

Q 変わらないというのは、作る側としては退屈ではありませんか?

A 全くそんなことはありません。

まず、良い料理は良い食材からできますから、良い食材を使うのは当然のことですが、その中でも、毎日違う状態の食材を、同じ状態に仕上げないといけません。お客様は、はるばる遠くからこの場所にやってきます。リクエストがあれば好みに合わせた料理を作りますが、メニューは変えません。

ただ、この場所がポール・ボキューズ氏の場所だから、ボキューズ氏の料理を作るのか、というと、そうではありません。

この場所は、お客様のための場所なのです。

お客様が、ボキューズ氏の作った料理を食べたいと思っていらっしゃるから、そのままのものを作っているのです。

何よりも大切なのは、お客様の満足、満足していただけるか、それは毎回大きなチャレンジなのです。それが、ボキューズさんの考えでもありました。

Q ボキューズさんは最後まで、厨房に来ていたと聞いています。

Aはい、ボキューズ氏はいつも厨房を見渡せる、客席と厨房をつなぐ通路のところに腰をかけていました。

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亡くなる前日まで、毎日。最後の方は、客席を回ることができなかったですが、厨房に来て挨拶していくのが日課でした。

いつも、厨房で何かトラブルがあると、それを察するかのように登場するのがいつも驚きでした。

Q ボキューズさんが亡くなられた今も、キッチンでは多くの若いシェフが働いていて、とても活気を感じますね。Olivierシェフご自身は、どういったきっかけで料理の道に入ったのですか?

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A 私自身は、とても料理が好きでこの道に入ったというより、料理をしている時に、自分自身が毎日新しくなって、向上していると感じる感覚が好きでこの仕事を続けています。これまでも、いくつかのレストランで働いて来ましたが、ここは私に取って初めての三ツ星の厨房で、ロティサリー担当の部門シェフとしてここに入った時は、きつくて数ヶ月でやめようと思ったほどでしたが、とにかくボキューズ氏をはじめ、人の温かさに救われました。

私は2015年にMOFをとった際も、まるで、皆が家族のように様々なことを教えてくれました。

そして、私がボキューズ氏から学んだように、今は若いシェフたちがMOF にチャレンジしています。私の下の2名のシェフも、最近MOFになりました。技術を伝承していく家族のような存在なのです。

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今も、私は厨房で何か間違ったことが起きそうになると、壁にかけてあるボキューズ氏の絵を見るように、スタッフに言います。自分たちは、ボキューズ氏に見られて恥ずかしくない精神で毎日仕事に向き合っているか。私たちの中で、ボキューズ氏は今も生き続けているのです。

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「ここは、家族のような場所なのです」というOlivierシェフの言葉にあるように、安心して戻って来たくなる場所。

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私の担当のサービスを担当されたブルーノさんも、ここで働いて30年というベテラン。仲良くなった隣のテーブルの方も、30年通っているという方でした。

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クラッシックの揺るぎのない「変わらなさ」の落ち着き、長年愛されて来たことで磨かれた、手触り感のある温もりを感じる、貴重なお店です。

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■ Paul Bocuse Restaurant( ポール・ボキューズ・レストラン)

営業時間:ランチ 12:00~13:45 (L.O.)、ディナー 20:00〜21:45(L.O.)、無休

住所:40 Quai de la Plage 69660, Collonges au Mont d'Or, France

電話:+33 04 72 42 90 90

https://www.bocuse.fr/en/paul-bocuse-restaurant.html

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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