[石川フェア] 天狗舞xはし田のスペシャルコラボディナーへ
Ishikawa's Winter Celebration石川県の冬の祝宴、と言うテーマで、12月8日、9日の2日間、石川県フェアが行われました。
会場となったのは、橋田建二郎さん率いる、はし田寿司シンガポール。富裕層の常連客や、地元メディアが訪れました。食事の前に、別の個室でまずは石川県のPRビデオの紹介と、特産の九谷焼と山中塗の作品をその場に展示しての紹介が行われました。九谷焼は石川県から、また山中塗は日本の工芸品を販売するギャラリー、HULSから。CEOの柴田裕介さんによると、お店の売れ筋の単価は200〜300ドル、特に酒器が売れるのだとか。私がお邪魔したのは石川フェアの2日目だったのですが、初日には、1000ドル近く購入して行った50代のシンガポール人の方もいらしたとのこと。
この日同席した友人のシンガポール人メディアも、「デザインが素敵」と、25ドルの小さな九谷焼のお猪口をいくつか購入していました。
そのあとは、石川の酒、天狗舞と会場となったはし田寿司のペアリングディナー。
まずは、天狗舞のもう一つのブランド、五凛。天狗舞がクラッシックな作りなのに対して、自由でモダン、滑らかな飲み口が楽しめるラベルです。最初は、山田錦を使ったものを。
車多酒造8代目の車多一成さんは、
「遊び心があるとはいえ、五凛も、天狗舞のアイデンティティーを保っています」と語ります。現代的な酒造りでは、淡麗でフルーティーな吟醸香のあるものが好まれがち。「食事にあう日本酒、という考え方はふた通りあると思っています。水のようにすっと飲める日本酒で、料理の味の邪魔をせず、華やかな香りだけを与えるという考え方、もう一つは、米の旨味や複雑味があり、料理の味にさらにボリュームを加えるという考え方。うちは後者の考え方です」
酵母は蔵で代々伝わる7〜8種類を使い分けますが、どれも穏やかな香りで、米本来の味を引き立てるものだそう。
この五凛を飲んでみると、水のようにするりと喉を通るスムースな飲み口ながら、米本来の香りや旨味を感じる作り。かと言ってぼやけるわけでなく、程よい酸も感じます。スタートにぴったりの柔らかな印象の日本酒です。
最初の一品は、石川の艶やかな山中漆器に盛り付けられた、華やかな八寸。
左から、出汁で炊いてから、片栗粉をまぶして揚げた石川県の丸芋、銀杏の素揚げ、鰆の揚げ物。九谷焼の小さな器の中には、石川のレンコンと金時人参のきんぴら。エビと白身魚のすり身がたっぷり入った卵焼きの上には、石川の五島金時芋の皮を素揚げにしたもの、同じ金時芋の芋羊羹に昆布締めにした柿、石川のヤマト醤油味噌の玄米甘酒、水ダコの刺身。
秋の味わいが盛り込まれた八寸は、それ自体で甘みがある素材が多く、比較的スッキリとしたこの五凛山田錦にあっている気がしました。
続いては、豊かな味わいの生酛。毎年車多酒造では、車多さんが「趣味」と語る、こだわりの造りの日本酒を限定数で出しているそう。今年出来上がったのは生酛造りの酒で、手間のかかることから、1000本の限定生産。「吟醸香の強いタイプではないので、熟成にも耐える。味のピークは作ってから一年、個人的には2年ほど熟成させて、しっかり旨みを立たせてもいいかもしれない」と語る五凛生酛ですが、すでに売り切れて酒蔵にもなく、最後に残っていたものを持ってきてもらいました。少し黄色味も感じられる色合い、米は山田錦。米の旨味と豊かなふくらみがあり、酸味のボリュームも最初のものより上がっていますが、旨味のおかげで、穏やかなものに感じられます。
「通常は速醸系と言って、市販の乳酸菌を買ってきて入れるので、通常2週間かけて酒母ができるのですが、私たちの作っている生酛系酒母は、水と米と麹で、2週間かけて乳酸を作り出してから、更に2週間かけて酒母を作ります。このお酒のように、生酛と言われるスタイルは、山卸と言って、櫂を使って人がその3つの材料をかき混ぜて、自然の乳酸菌発酵を待つので、手間はかかりますが、そのぶん旨味と複雑さが増すのです」
それに橋田さんが合わせたのは、治部煮。
温かい出汁は、醤油もみりんも控えめな、吸い物のようなさっぱりした味付けで、日本酒の甘みや旨味を引き立てます。中には小麦粉をまぶした鱈と、石川の加賀蓮根を使った蓮根餅、ほのかな酸味を加えるチェリートマトと石川の菊菜。温かい出汁で、口の中が温まった上で、この日本酒をいただくと、旨味のボリュームがぐんと上がる気がしました。
もう一皿は、刺身。
「東京のはし田で父と共に作っていたのはぶりを千枚漬けに挟んだもの。だけれども、米と麹の甘い香りのするこの日本酒には、すでに発酵の香りがある。なので、煎り酒の梅干しを少し潰して酸味を強く出したものに石川産の蕪を漬けた自家製の漬物にぶりを挟みました」と橋田さん。
鯖も、酢で締めずに、自家製のタレに漬け込んでいます。キメの細かいマグロの中トロと表面を炙った脂の乗った金目鯛と共に。
3本目は、石川県内限定の「海の幸に合う天狗舞純米」。
山廃仕込みでアミノ酸が多く、旨味が強いのが特徴。酸も先ほどよりさらにボリュームが上がったように感じます。飲んだ後の米の豊かな広がり感、後味の余韻がはっきりしています。やや黄色い色合いは、フィルターを通していないから。
「清澄化するのは炭素フィルターを通すだけで簡単なのですが、同時にいくつかの味の構成要素も失われてしまいます。なので、うちの酒はフィルターをかけないのです」と車多さん。酒米は五百万石、「本来幅がなくシャープな味になりやすい」米を、ふくよかに仕立てました。
車多さん、「この日本酒は女優に例えると、鈴木京香さん。40代だけどすっぴんでも綺麗な人、そんなイメージです」とユーモアたっぷりに説明。鈴木京香さんをこちらのメディアの友人たちに説明するのには少し骨が折れましたが、盛り上げ上手な車多さんに、すっかり場が和み、会話の弾む和やかな雰囲気に包まれていました。
これには、石川から届いた香箱がに。
濃厚なコクの内子とプチプチした食感の外子、ほぐした身を混ぜ混んだ上に、蒸し揚げた足の部分を並べた手の込んだもの。
日本酒の香りにある旨味感と蟹の香りの旨味感がぴったり。飲むとさらに味わいが重層的に重なります。この日のペアリングで一番好きでした。
さらに橋田さんが合わせたのは、ぶり大根。
出汁でじっくりと煮込んだ源助大根に、同じしょうゆとみりんのタレを塗って照り焼き風に焼き上げたぶりを乗せた再構築系。ぶりに火が通り過ぎることなく、その脂の香ばしさや表面のタレが焦げた部分も楽しめるようになっています。万願寺唐辛子とかぼちゃ、なす、山椒の有馬煮と山椒の粉、そしてシグネチャーのあん肝。あん肝の表面が、以前よりもっとごく薄い飴でコーティングされたようにカリッとして、中のトロッとした食感との対比がより楽しめるようになった気がします。甘辛な味わいは、ボディのある天狗舞によく合います。
そして、最後のペアリングは年間200本醸造、はし田のためだけに作ったという日本酒、はし田x天狗舞を。
「刺身と合わせた時、寿司と合わせた時それぞれで、日本酒の印象が変わる」というのが、はし田さんがこの日本酒を選んだ理由。米は山田錦の純米大吟醸で、天狗舞にしてはやや軽やかで透明感のある日本酒。
橋田さんは数日前に手を怪我したということで、握りは二番手の佐藤さんが。
ここまで色々いただいたので、魚も酢飯も小さめで。
昆布締めにした鯛、ゆずを効かせたしょうゆとみりんで漬け込んだ赤身のづけ、ぶり、炙ったかます。
はし田の酢飯は酸味が控えめのやや甘めの味付け、米の旨味もしっかりあります。だからこそ、日本酒は甘みや旨みは引き算で、かつ魚本来の香りや味わいを邪魔しない米自体の香りが楽しめるものを選び、全体のまとまりを出している気がしました。
そして、小さな丼は、旨味が凝縮した蒸したオスのズワイガニの脚と、表面だけ軽く炙ったのどぐろ、うにとイクラ。
特に炙ったことで、脂の乗ったのどぐろの表面のカリッとした香ばしさ、生の滑らかな肉質の両方が堪能できて、印象的でした。
最後は、はし田定番のとろける大トロの握り。
デザートは、石川県産の干し柿に、ほんのりバニラを効かせたミルクアイスクリームを詰めて。
メロン、いちごと共に。
最後には石川の産品が当たる抽選会も。
石川県の食材の魅力が詰まったイベント、現地メディアの友人の一人は、つい先週金沢から帰ってきたところ。「知らなかった石川の魅力を今回また見つけることができた、ぜひ次回は酒蔵も訪ねてみたい」と話していました。
<DATA>
■ Ishikawa's Winter Celebration
日時:2017年12月8日、9日(終了)
■Hashida Sushi Singapore(はし田寿司シンガポール)
営業時間:ランチ 12:00~15:00、ディナー 19:00~22:00(月曜休み)
住所:333A Orchard Road, #04-16 Mandarin Gallery, Singapore 238897
電話:+65 6733 2114
アクセス:MRTサマセット駅徒歩5分
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
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