夕やけ小やけの傳香寺

公開日 : 2018年09月27日
最終更新 :
筆者 : 大向 雅
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今回は奈良市にある傳香寺(でんこうじ)を解説。

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創建は天平時代で、鑑真和上の高弟・思詫(したく)が庵を結んだ場所であり、実円寺と称されましたが荒廃。その後800年余り経た1585年に、若くして没した戦国大名で、一時期大和の国を治めていた筒井順慶(じゅんけい)の菩提を弔うために、母・芳秀尼(ほうしゅうに)がお寺の建立を発願され実円寺を再興され、その時に寺号を傳香寺と改められて以来、こちらは筒井一族の菩提寺となっていて、たくさんのお墓が立ち並んでいます。

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御本尊の釈迦如来像を祀る本堂は、表門とともに再興時に建てられたもので当時の面影を残しています。

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本堂の前にあるこの大きな椿も、芳秀尼が香花の絶やさざる寺院を願って植えられた木の子孫(3代目)です。普通は椿といえば...ポトっと花ごと落ちてしまうイメージですが、こちらはまるで桜のようにハラハラと花びらが散っていくことで「散り椿」として東大寺の「糊こぼし椿」、百毫寺の「五色椿」とともに、大和の三名椿として知られています。

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また、本堂に向かって左にあるこちらのお堂には、少し珍しい地蔵菩薩像が安置されています。

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一目見て分かっていただけるように、本物の着物を着せてもらっていることで有名な仏像です。もちろん着物を脱がせると裸形(はだかんぼ)のお姿なので、初めから着物を着せて祀るように彫られた仏像なのです。より人間に近い存在であるということを表現しているのかも知れませんね。

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そして、なんとも面白いことに境内の半分以上は幼稚園の敷地となっていること。お寺に幼稚園が併設されているというのは、京都でも奈良でもよくある話なので、それほど驚くべきことではないかもしれませんが、傳香寺さんはやはり一味違います。(本堂の前に雲梯があるというのは別にして(笑))

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実は、ここに戦後東京から移り住まわれた児童文学者の久留島 武彦(くるしま たけひこ)氏の寓居跡(ぐうきょあと)の碑があります。

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と言われても「誰それ?」「児童文学者なんて知らない」と思う方も多いと思います。しかし久留島氏は、なんと日本人なら誰でも知っているあの名曲「夕やけ小やけ」の作詞者なのです。1887年大分県に生まれた久留島さんは中学の時に英語教師をしていたアメリカ人宣教師のS・H・ウェンライトという人物と出会い、教会の日曜学校で子供たちにお話を語る楽しさにすっかり魅了されたのが童話の世界への入り口だったそうです。

大人になってからは日本全国で童話を語り聞かせる、口演童話活動を本格的に開始され、6,000を超える幼稚園や小学校を訪問されました。1924年には日本童話連盟が創立され、同じく児童文学者であった厳谷小波(いわやさざなみ)氏らと共に顧問に就任されました。

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(無料写真素材photoAC)

同年にデンマークで行われたボーイスカウトの第2回世界ジャンボリーに、副団長として日本から参加したときに、童話作家のアンデルセンの生地であるオーデンセを訪れ、アンデルセンの生家が物置同然に扱われている事や、アンデルセンのお墓が荒れ放題だったことに心を痛め、地元新聞をはじめ、行く先々でアンデルセンの復権を訴えて回られました。その姿に心を打たれたデンマーク人たちからは「日本のアンデルセン」と呼ばれていたそうです。

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彼が東京で営んでいた早蕨(さわらび)幼稚園が空襲で焼失してしまい、ここ傳香寺に建てられた「香積庵」に住まわれ、その後彼の勧めによって開園されたのがここ「いさがわ幼稚園」ということだそうです。園名の率川(いさがわ)は古く万葉集に詠まれた地名から付けられているというところも渋いですよね。

現在でも児童文化振興に功績のあった個人、団体に贈られる「久留島武彦文化賞」というものがあるほど立派な功績をあげている人物のことを、小学校で少し教えてもらいたいものですね。

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