天平時代の仏像を守る聖林寺

公開日 : 2018年05月10日
最終更新 :
筆者 : 大向 雅
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聖林寺(しょうりんじ)は奈良県桜井市にある真言宗室生寺派の寺院です。

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かつて中大兄皇子と中臣鎌足が大化の改新について語り合ったとされる、談山神社(たんざんじんじゃ)がある多武峰(とうのみね)へと続く山の中腹にあり、奈良時代の712年に談山神社の前身である妙楽寺(みょうらくじ)の別院として定慧(じょうえ)という僧が創建したと伝わっています。

定慧という方は、中臣鎌足(なかとみのかまたり)の長男で、母は鏡女王(かがみのおおきみ)という女性。鏡女王といえば、飛鳥時代の有名な歌人である額田女王(ぬかたのおおきみ)の実姉であり、中大兄皇子(後の天智天皇)の側室だった女性です。

ここで一つの疑問が生じます。

といいますのも、中臣鎌足公といえば天智天皇の懐刀として飛鳥時代の政治の中枢を担う人物であり、後世にまで長く反映する藤原氏の始祖である凄い人ですし、そもそも中臣氏といえば代々神道を守る家柄なわけです。

このような人の長男を跡継ぎにすることなく仏教の僧として出家するなど、じつに不思議な話なので...巷では中大兄皇子が、すでにお腹に子を宿した鏡女王を、鎌足に下賜されたことに畏れ入り、自分の跡継ぎとせずに出家させたという噂もあるのも頷けますね。(あくまでもウワサですよ)

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それにしても山の中腹にあることから、ロケーションが抜群で、右手前の三輪山から東大寺の後ろにひかえる若草山まで、古代より青垣と称された山々が綺麗に見渡せます。

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本堂には、御本尊である大きな石造の子安延命(こやすえんめい)地蔵菩薩がで~んと座ってらっしゃいます。丈六(一丈六尺の略=約2.4m)のお地蔵さまですから、かなり迫力がありますが、少々体に対してアンバランスな大きなお顔が優しいこともあって、とても和みます。

延命地蔵さまというのは経典の中で、お釈迦様が自分の亡くなられた後にわれわれ衆生を救う存在だと言われていて、健康で丈夫になれる、人々の病を取り除く、寿命を長くする、賢くなる、女性なら出産できるといった幸福をもたらしてくださるとともに、風雨は時節にかなったものとなり、国家安泰で内乱・内部抗争が起こらず、星宿が悪い方向に変化せず、鬼神がやってくることはなく人民が病や飢餓に苦しむことなどの恐怖が取り除かれるとされている大変ありがたい功徳のある仏さまなのです。

そして御本尊に向かって左に立つ色白なのは白蓮華を持つ掌善童子(しょうぜんどうじ)、右に立つ赤色なのは独鈷杵という法具を持つ掌悪童子です。この二人はお地蔵さまの両手両足となり、衆生を救うために日々奔走されておられます。

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とても心地よい風がそよそよと吹き込んで来る本堂で、お地蔵さまの顔を眺めていると、それだけで極楽にいるような気分になってきます。

そしてもう一体、ここ聖林寺には別格な仏様がおられます。 それはかつて明治の神仏分離令が出される直前に大神神社(おおみわじんじゃ)の神宮寺であった大御輪寺(だいごりんじ)から聖林寺に移された十一面観音菩薩像です。

大御輪寺はその後の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく=仏教弾圧)によって廃寺となってしまいましたが、仏像は奇跡的に救われたわけです。

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本堂からつづく階段を上っていきますと、鉄筋コンクリートで作られた耐火仕様の大悲殿という建物があります。中に入りますとガラスの向こうに凛とした表情で立たれる十一面観音菩薩像。像高209.1cmと大柄なお姿は凛とした雰囲気があります。

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木心乾漆(もくしんかんしつ)という技法で造られているお像で、信仰の対象としてはもちろんのこと美術的観点からみても秀逸な仏さまです。木心乾漆造といいますのは一木造りで仏像を彫上げた後、木屎漆(こくそうるし=麦漆に木粉等を混ぜたもの)を盛り上げて造像していくというもので、この像はそこへまだ金箔が施されていることからも分かるように、恐ろしく手間とお金がかかっている仏像といえます。

このように漆をふんだんに使う技法は天平時代(奈良時代の美術史上の時代のこと)特有のもので、現存するお像も少数であり、これほど状態が良い仏像は大変貴重なことから国宝に指定されています。ちなみに国宝の十一面観音菩薩像は日本にたった七体しかありませんから、国宝中の国宝だと言えます。

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バスの本数も多くない場所ですので少々骨が折れますが、奈良観光の際にはこちらにぜひ足を運んでいただくだけの価値はあると思います。

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