続・ひっそり楽しむパティオの魅力 イントラムロス上級編・番外

公開日 : 2014年08月01日
最終更新 :
筆者 : Okada M.A.

※注意: 今回の記事は、写真は現実のものですが、記事はフィクションです。ファンタジーにご不満のある方は、ここから先に進まないでください。

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「イントラムロスでメフィストは待っていた/パティオでの幻想」

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徒然なるままに、石の要塞都市イントラムロスの要塞機能の一つ、サン・ディエゴ堡塁(ほるい)のパティオを雨上がりに訪ねた。

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そのパティオは広い芝生の切れる辺りにあるアーチの陰になっており、これといって案内の標識もない。その為、殆ど訪れる人もなく、アーチに併設されているトイレに立ち寄る人はいるが、ほとんどは用が済むと、忙しそうに行ってしまう。

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私は何か気になって足下をふと見ると、雨水に濡れた石畳のアレイの上に、眼も覺めるような美しいカーマインのタンビスの実が何個も墜ちていた。雨上がりの爽やかな芝生の緑との対比は鮮やかで、その二色の主役達を載せる舞台となっている濡れた石畳の渋い色調がその対照を一層際立たせているのだった。

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私は種を追ってついばむカラスのように、タンビスの真っ赤な色に誘われて、石畳のアレイを奥にすすんでいったのだった。

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誰もいないパティオの真ん中には、熱帯のアナハウの葉で葺いた屋根を持つガゼボがあった。

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私は竹で作られたガゼボのカウチに座ってふと見ると、全身が鋼色の得体の知れない男が垣根の前に立ってこちらを見つめているのに気づいて思わずギョッとしたが、よく見るとそれは鋳物で出来た人形であった。誰かがオブジェか何かの積もりでこんな所に飾ったのか、単に適当に放擲していったのかは解らないが、兎に角謎めいた存在であることは間違いない。

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その鋳物人形は、片手で帽子を持ってその顔を隠していた。これから被ろうとしているのか、それとも理由があって顔を隠さなくてはいけないのかは不明だか、その妖しさはまるで、メフィストフェレスの様ではないか。

スペインが放棄して依頼、様々な国によって侵略されては放棄されて来たこの無国籍な、古い石造りのイントラムロスで、私はメフィストの悪魔と出会ったのかも知れない。

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それがメフィストフェレスならば、私の役割はファウストだが、それなら私は何を取引したら良いのだろうか。ロバート・ジョンソンは四辻のクロスロードで、悪魔と取引してブルースの魂を手に入れたというが、果たして私に今取引したいものなど何があるのだろうか?

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私はもう中年も過ぎようとしている歳なので、今更きらびやかな人物などに興味はないし、持ちなれない大金を掴んた者は例外なく不幸になることも知っている。例え煩悩にまみれたところで若さが戻る訳でもない。体の若さが戻ったとしても、精神まで青臭く戻るのはまっぴらだし。

その時、私は悪魔の下僕になるのも厭わぬ程の、取引に足る何物かを、既に持たない自分に愕然とした。

私は焦った。メフィストフェレスの存在を前に焦ったのではない。既に人生を賭ける程の希望をもたない自分に焦ったのだ。私は今ここで何か思いつかない限り、もう私の残りの人生そのものが駄目になってしまうように想えた。

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更に苦い焦りに弄ばれた私に突然光が差した。

そうだ!これだ、タンビスだ。タンビスの木だ。

毎年毎年このような美しい真っ赤な実を実らせることが出来るのなら、タンビスがいい。タンビスの木になるんだ。

そしてそれは美しいだけではない、それは十分に魅力的で官能的でさえある。毎年毎年半永久的に実を実らせるタンビスの木になれるのなら、悪魔の下僕になる日は悠久の時の向こうではないか。

私はここで、毎年実を実らせて、そしてまた私のような人間を誘うのだ。やがてタンビスの実でこのパティオが一杯になる、それはなんと魅力的なことだろう。

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私が取引すべきものを見つけたその時、人形のメフィストフェレスはその帽子をゆっくりと上げた。そこに頭は無かったが、メフィストフェレスは確かに私に微笑んだのだった。

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