フランス リヨンの、クロワ・ルースの丘でストリートアートを楽しむ

公開日 : 2020年07月18日
最終更新 :

【フランス リヨン便り n°30】

フランスのリヨンにはふたつの丘があります。ひとつは、リヨンを流れるソーヌ川とローヌ川に挟まれた中州(プレスキル)の北、標高254mのクロワ・ルースの丘(Colline de la Croix-Rousse)、もうひとつは、ソーヌ川右岸にあるフルヴィエールの丘(Colline de Fourvière)です。

フルヴィエールの丘は「祈りの丘」と呼ばれ、頂上に聖マリアに捧げる教会が建ち、一方、クロワ・ルースの丘は「働きの丘」と呼ばれ、リヨン絹織物産業の生産拠点として発展してきた丘です。

フルヴィエールの丘についてはこちらの投稿を参考にしていただければうれしいです。

実は、クロワ・ルースの丘はふたつに分かれ、斜面はリヨン第1区に、斜面上方から丘の高台はリヨン第4区に属していますが、それぞれが異なる歴史を歩んできました。というのも、1512年、フランス王ルイ12世がリヨンの町を守るための城壁をクロワ・ルースの丘の斜面に建設してから、城壁内がリヨンの町に属し(現在のリヨン第1区)、城壁の外側は、1852年にリヨンに統合されるまで独立したひとつの町でした。ちょうどルイ12世が城壁を建設した頃、高台にオークル色の十字架(Croix、フランス語読みでクロワ)が建てられ、それが「クロワ・ルース」の名の由来といわれています。

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18世紀後半から、リヨンよりも税金が安い城壁の外側のクロワ・ルースの高台にキリスト教関係者や商人たちが移り住むようになりました。そして、クロワ・ルースの町が大きく変わったのは19世紀に入ってからです。フルヴィエールの丘の麓のサン・ジェルジュ地区やプレスキルで働いていたカニュ(Canuts)と呼ばれる絹織物の職人たちがクロワ・ルースの丘に大量に移住してきたのです。1795年におよそ6000人だった住人が1852年には5倍のおよそ3万人まで増えました。フランス革命(1789年)で没収された宗教関係の土地や建物が売却され、絹織物労働者の住居兼仕事場となる建物が次々と建設されました。建物の特徴としては、1日あたりの労働時間をより長く確保するために日当たりのよい場所で、大きな窓を配し、高さ4mもするジャガード織機を収納できるように天井を高くし、織機が固定しやすいように天井にオーク材の梁が使用されていることです。

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19世紀、3万人ものカニュ(絹織物職人)がクロワ・ルースの丘で働き、リヨンの絹織物産業の発展に貢献してきました。クロワ・ルースの歴史で有名なのが「カニュの反乱」です。低賃金で長時間労働を強いられたカニュたちが労働条件改善のために立ち上がり、1831年、1834年、1848年と立て続けに抗議運動をおこしたのです、これがフランス最初の労働者ストライキです。20世紀に入って時代が変わり、合成繊維の普及により絹織物産業は衰退していきますが、カニュの反骨精神は失われることなく、21世紀の現在、絹織物は伝統産業としてその技術の保護と継承が行われています。

「働きの丘」と呼ばれたクロワ・ルースの丘ですが、現在は、若手アーティストやクリエーターがアトリエやブティックを構え、また、おしゃれなカフェやワインバー、ビールバーが点在し、若者たちでにぎわっています。クロワ・ルースの丘を散策しながら目を惹くのがストリートアートです。落書きも目立ちますが、それはご愛敬として、壁や階段に描かれた芸術性の高い作品が小路を飾っています。

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もちろん、クロワ・ルースの観光スポットとして外せないのが「カニュの壁画(Fresque des Canuts)」です。1987年にシテクレアシオン(Cité Création)というアーティスト集団が手がけた作品で、窓も何もない1200平方メートルの壁にクロワ・ルースの地域の様子が描かれています。1997年に続いて2013年に修復が行われ、時代にあわせて描き直されているのがおもしろいです。

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フランスでは、夏のバカンスで人の移動が増加するなか、ウイルス感染の再拡大を防止するために、屋内の公共の場でのマスク着用が義務化されます。2020年07月17日14時時点で97のクラスター(前日比+16)が確認されており、感染予防の努力の徹底が求められています。

リヨンでは日中30度を超える暑さの日もあり、マスクは居心地がよいものではありませんが、「人に感染させない」「人から感染しない」ためにもマスク着用を習慣づけ、ウイルスから身を守りながら、夏をエンジョイしましょう。

筆者

フランス特派員

マダムユキ

リヨン在住20年以上。フランス各地の魅力を文化・芸術・建築・食を中心にお届けしたい。

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