フランス リヨンの、サン・ジャン大聖堂が空っぽだった!

公開日 : 2020年06月14日
最終更新 :

【フランス リヨン便り n°26】

フランスのリヨンに活気が戻りつつあります。

初夏の空の下、お昼時はテラスで同僚たちとランチを、夕方は友達とアペリティフを楽しむといった光景がふたたび見られるようになりました。頬と頬を触れあったり、体を抱きしめあったり、握手したりと、相手によって度合いが異なりますが、スキンシップをともなう挨拶を習慣とするフランス人にとって、人間関係の基礎となるのは、同じ時間、同じ空間を共有することなのでしょう。テレワークやリモートワーク、オンライン飲み会も便利で悪くはないけど、人と人が直接会うことによって得られるもの、「肌で感じる」何かが大切ではないかと。仕事においてもプライベートにおいても、メールでは伝えきれないことは電話で、電話で伝えきれないことは直接会って話してみると、相手の声のトーンや表情で、同じ内容でもニュアンスを変えて伝達することができます。伝え方も受け止め方も、その場の雰囲気にあわせて柔軟になり、それが対面コミュニケーションのメリットではないかと思うのです。

新型コロナウイルスが私たちに与えたインパクトのひとつとして、これから「非接触」「非対面」へと移行していくでしょう。もちろん、連絡や情報伝達を目的とするコミュニケーションはバーチャル空間で絶対的な効率性を発揮しますが、せめて親しい間柄では、アフターコロナでもリアル空間での対面コミュニケーションを大切にていきたいです。「対面神話」を信じる古い時代の人間なのかもしれませんが。

そんな、こんな、あんなで、話はかわりますが、外出規制が緩和されてから、町歩きの時間が増えました。感染予防と、55日間の自宅待機による運動不足の解消を兼ねて、公共交通機関の利用はできるだけ避け、徒歩移動を心がけています。先月になりますが、少し曇りがちのある日、リヨンのサン・ジャン地区に立ち寄ってみました。これまでも数えきれないほど訪れているおなじみの場所なのですが、今回はいつもよりも感慨深く、幾多の戦争や災害を乗り越え、今もなお、堂々たる姿で建っているサン・ジャン大聖堂をしげしげと眺めてしまいました。

ソーヌ川右岸のフルヴィエールの丘からその麓に広がるヴュー・リヨン(Vieux-Lyon)と呼ばれる旧市街、ソーヌ川とローヌ川に挟まれたプレスキル(Presqu'Île)と呼ばれる中州からクロワルースの丘にかけて、これら一帯がリヨンの歴史地区として1998年にユネスコ世界遺産に登録されました。なかでも、サン・ジャン大聖堂を中心とするサン・ジャン地区はリヨン屈指の観光スポットになっています。リヨネ(リヨン住民をそう呼びます。パリ住民の「パリジャン」のほうが響きが格好いいですね)に、「リヨンでおすすめの観光スポットは」と尋ねると、10人中9人は旧市街あるいはサン・ジャン地区と答えるでしょう。ソーヌ川沿いから見たフルヴィエール教会とサン・ジャン大聖堂のうしろ姿は、リヨンを象徴する光景で、絵葉書にもよく見られます。

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サン・ジャン大聖堂は略称で、正式名称は「サン・ジャン・バティスト・サン・テティエンヌ司教座教会(La Primatiale Saint-Jean-Baptiste-et-Saint-Étienne)」といいます。1079年に当時のローマ教皇グレゴリウス7世によって「ガリアの首座司教聖堂(La Primatiale des Gaules)」という名を与えられ、位階の高い権威ある教会として認められていますが、リヨンがフランス(当時は「ガリア」の一部)最初のキリスト教徒の殉教の地であり、最初の殉教者となったリヨン司教の聖ポティヌスや聖ブランディーナへのオマージュが込められているからです。

現在のサン・ジャン大聖堂は、古い教会の上に1180年から1480年にかけて建てられ、工事が進むにともない、古い教会は取り壊されていきました。現在、大聖堂北側に当時の古い教会跡が発掘され、考古学公園として市民の憩いの場となっています。

大聖堂の建築が始まった12世紀はロマネスク様式が主流で、教会正面南側にマネカントリー(Manécanterie)と呼ばれる聖歌隊養成所の建物跡があり、円形アーチの開口部(現在は埋められています)、トリフォリウムを想起させる対となる半円アーチからなる装飾的アーケードなど、ロマネスク時代の姿が残されています。

西側ファサード(教会入口正面)は典型的なゴシック様式で、3つの扉口からなる第1階層、装飾アーケードが連なる第2階層、大きなバラ窓の第3階層、最終階層は両端の角柱塔の間に三角形の切妻壁が配されています。3つの扉口には合計320の浅浮彫が施されたメダイヨンで装飾され、聖書の一節や聖人の生涯、鳥獣や植物などをモチーフに、一つひとつを観察すると愛嬌とユーモアにあふれた四コマ漫画のようです。

扉口上のタンパンの彫刻は残念ながら壊されてしまいましたが、南タンパンは「聖母の戴冠式」を、北タンパンは聖ピエトロをモチーフにしたものではないかと言われています。

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大きな扉口を抜けて教会の中に入ってみたら、内部が空っぽでした!

ミサをはじめとする宗教行事が禁止されていたため、教会身廊(中央部)に置かれている礼拝者用の椅子がすべて取り除かれていたのです。

サン・ジャン大聖堂は、幅26m、奥行き80m、高さ32.5mで、ラテン十字形をしていますが、「何もないとこんなに広々するんだ」と、本当に驚きました。

サン・ジャン大聖堂は、大聖堂建築でよくみられる内陣を取り囲む周歩廊が存在しないことが特徴で、入口からアプス(後陣)のステンドガラスやバラ窓まで一目できます。

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大聖堂には小礼拝堂が南側廊に3つ、北側廊に5つ設置されています。

最も壮麗な礼拝堂は、南側廊の正面入口から入ってすぐの「ブルボン家礼拝堂(Chapelle des Bourbons)」です。礼拝堂を設置したブルボン公シャルル2世枢機卿にちなんで名づけられました。

礼拝堂建設にあたり、ブルボン公国の首都ムーラン(Moulin)よりゴシック様式の技術に精通した職人を呼び寄せたそうです。壁や柱、交差ヴォールト天井の交差線に沿ってかけられる尖塔アーチ(オジーヴ)や上階ギャラリーの欄干にいたるまで、フランボワイアン様式の豪華な彫刻が施されています。

1816年の王政復古時代、「サン・ルイ礼拝堂」と改名され、週1回、国王と王家のためのミサが執り行われたほど豪華な礼拝堂です。

祭壇上の絵画は、フランドル画家アンリ・ファランジュ(Henri PHALANGE)による1626年の作品で「東方三博士の礼拝」を表現しています。パリのマトゥラン修道院(Couvent des Mathurins)が所蔵していたのですが、フランス革命で没収され、その後、リヨン大司教のジョゼフ・フェッシェ枢機卿の蒐集品となり、当大聖堂に献上されました。

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サン・ジャン大聖堂の袖廊北側に高さ9.35m、幅2.2mの、3つの文字盤とからくり仕掛けを装備したドームをもつ大きな天文時計があります。フランス最古の天文時計といわれ、古文書によれば1393年に現在の位置に置かれていたことが伝えられています。そのあと、フランスおよびスイスの有能な時計職人によって改良を繰り返してきましたが、5日間おきに420回巻き直さなければならず、1930年に自動巻きムーブメントが搭載されました。正面の上下に配されたふたつの文字盤は、下がパーペチュアルカレンダー、上がアストロラーベです。

時計は1日4回(12時、14時、15時、16時)に時を告げてきましたが、2013年3月23日、28歳の男性が「このすばらしい時計のせいで、信者たちが祈りに集中できない」という理由で、鉄棒で天文時計の数ヵ所を破壊してしまい、動かくなってしまいました......。

それでも、天文時計のすばらしい装飾は、袖廊の南北に色鮮やかに輝くふたつのバラ窓と天文時計の向かい正面におかれた大きなオルガンとあわせて、今もなお多くの観光客を惹きつけています。

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大聖堂前の広場中央にヨハネから洗礼を受けるキリストの像が置かれています。

広場から見上げるフルヴィエールの丘も味わい深いものがあります。

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【サン・ジャン大聖堂(CATHEDRALE SAINT JEAN)】

・住所: 8 Place Saint Jean 69005 Lyon France

・開館時間: 月曜~金曜日 8:15~19:45、土曜日 8:15~19:00、日曜日 8:00~19:00

※1月1日、イースターの月曜日、5月1日、5月8日、ペンテコステ(聖霊降臨)の月曜日、7月14日、11月11日は13時からの開館

・アクセス: 地下鉄D線「Vieux Lyon」駅下車徒歩2分、地下鉄A線「Place Bellcour」駅下車徒歩10分

筆者

フランス特派員

マダムユキ

リヨン在住20年以上。フランス各地の魅力を文化・芸術・建築・食を中心にお届けしたい。

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