伝説のドラゴン退治「イギリス聖ジョージ・デー」

公開日 : 2021年04月19日
最終更新 :

先月2021年3月1日に「聖デービッド・デー(St David's Day)」(関連記事)を祝ったウェールズ(Wales)のシンボルは赤い竜(ドラゴン)で国旗にも描かれていますが、イギリスには白い竜もいます。

4月は聖ジョージの日

ロンドン市内を歩いていると、竜をかたどった像や紋章をよく見かけます。これは金融街、シティが採用しているシンボルで、シティの紋章はイングランドの守護聖人である聖ジョージ(Saint George)とシティ・オブ・ロンドンの守護聖人、聖ポール(Saint Paul)の象徴が合体したものです。

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今週4月の23日は、その聖人をたたえる記念日「聖ジョージ・デー(St George's Day)」ですが、聖ジョージと鬼退治ならぬ竜退治は切っても切れない、伝説として語り継がれています。わが子が通うイギリス現地の学校でも、毎年この季節になると授業でこの逸話を習うほどです。

紅白竜の戦い

ウェールズの人々が赤い竜にアイデンティティを見出すように、イングランドの人たちにとっては、白い竜がルーツを思い起こさせる民族的象徴です。その昔、イギリスのブリテン島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)はローマ人によって支配されていましたが、ローマ軍撤退後はゲルマン系のサクソン人やアングル人が渡来し、もともと定住していたケルト系の土着民族であるブリトン人と激しい争いが生じました。

その時にアングロ・サクソン人は白い竜、ウェールズ人の祖先であるブリトン人は赤い竜と、双方の軍が竜の絵を旗に入れました。これが今日のイングランドとウェールズが、それぞれの竜を象徴としている所以です(参照: "The White Dragon Flag of the English" we are the ENGLISH.com 2021.)。

現在、竜の絵が旗に残っているのはウェールズだけで、イングランド人が祝う聖ジョージ・デーでは、イングランドの国旗「セント・ジョージ・クロス(St. George's Cross)」 という、白地に聖ジョージの血を表した赤の十字が描かれた旗を掲げます。

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私はまだこちらに来たばかりの頃この旗を知らず、ママ友に「あれはいったいどこの国の旗? なんであんなにおっきな旗をわざわざあげてるの?」と聞き、初めてその存在を知りました。

聖ジョージによる伝説の竜退治

イギリスと竜の関係は、これだけではありません。ウェールズの聖人、デービッドに伝説がついて回ったように、イングランドの聖人、ジョージにも有名な伝説があります。それがまたしても登場する竜、ドラゴン退治です。いくつかのバージョンがあるようですが、基本的なストーリーは次のようなもの(参照:Barrow, Mandy "The Legend of Saint George and the Dragon" Project Britain 2014.)。

-とある町が、悪い竜によって支配されている

-若い姫が竜の生け贄にされる

-それを聞きつけたジョージが村に乗り込み、見事竜を退治し姫を助け出す

竜が悪の化身とされていた中世のヨーロッパでは、悪い竜をやっつけるという聖ジョージの話はわかりやすい勧善懲悪で、後世にまで伝わるほど人気になりました。

当日の楽しみ方

聖ジョージの命日である4月23日の前後には、例年イングランド各地で祭りが開かれます。鎧かぶとを身につけ、聖ジョージに扮した人が竜退治を再現したり、地元のパブで、伝統的なイングランド料理を食べるなどして楽しむそうです。

特に大々的なのはロンドンのトラファルガー広場で、食べ物の出店やマーケット、露店が並び、さまざまな関連イベントが催されます。

イギリスの伝統ダンスであるモリス・ダンス(Morris dance)や古典人形劇のパンチ&ジュディ(Punch&Judy)が披露されたりと、イギリスらしい慣習にどっぷり浸かれる日となります。

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ただし、昨年はコロナ禍による都市封鎖中で、これらイベントは軒並みキャンセル。今年も再びロックダウンの最中とあり、引き続き開催は見送られました。

聖ジョージの威力

実は、聖ジョージはイギリス人ではありません。それどころか、イギリスに足を踏み入れたこともなく、スペインのカタルーニャ地方やエチオピアなど、そのほかの国や地域でも守護聖人として崇められています。

聖ジョージはローマ兵でしたが、所属していたローマ軍より棄教するよう迫られてもせず、ついには殉教してしまったと言われています。キリスト教信者の多いイングランドでは、こういった信心深い態度や勇敢な行動力などが、当時の王を始め、一般市民にも好意的に受け止められたのではないでしょうか。

中世時代には、ペストなど疫病から守ってくれる聖人(参照:"9 THINGS YOU DIDN'T KNOW ABOUT ST GEORGE" English Heritage)としても信奉されていたそうで、時を越え歴史は繰り返されるのでしょうか。

新型コロナが蔓延してしまった現代との不気味な因果関係を見たようで、当時の人々の気持ちにまで想いを馳せてしまいました。聖ジョージの御加護で、コロナも退治できたらどれだけの人が助かることか......。

来年こそは、通常どおりに各種イベントが開催されることを祈っています。

筆者

イギリス特派員

パーリーメイ

2017年よりロンドン南部で家族と暮らしています。郊外ならではのコスパのよいレストラン、貴族の邸宅、城めぐり、海沿い情報などが得意です。

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