イギリス学校再開と「シムネル・ケーキ」

公開日 : 2021年03月09日
最終更新 :

昨日2021年3月8日は、年明けから長らく続いていた学校閉鎖がいったん解除され、久しぶりの登校日でした(「いったん」という言葉は私自身の言葉で、英政府は今後学校を閉鎖することは絶対にあってはならない、と強調しています)。家庭学習(関連記事)から解放された喜びは、子供たちのものだけではありません。

この日を同じく待ち望んでいた先生たちは、校門を「Welcome Back」という垂れ幕とたくさんのバルーンで生徒たちを出迎えてくれました(先生たちが並んでいたわけではありません)。

学校が閉鎖されていた間、多くの行事が省略されていましたが、「世界本の日(関連記事)」は来週に延期、そして今週末に控えているイギリスの母の日に向けては、今年もカードやプレゼントの作成などが間に合うのではないでしょうか。

今週の日曜日3月14日は、「マザリング ・サンデー」ことイギリスの母の日です。2019年の記事(関連記事)でも取り上げましたが、イギリスの母の日は5月にある日本やアメリカなどとは違い、イースター(復活祭)と関係が深いので毎年日にちも変わり、2、3月頃です。

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前回は子供の関連行事などに焦点を当てましたが、今年はこの時期に食べられる「シムネル・ケーキ」をもう少し掘り下げ、また、アメリカ式母の日との関係にも注目したいと思います。

イギリスの伝統菓子「シムネル・ケーキ」

シムネル・ケーキとはドライフルーツ入りの伝統的なイギリスの菓子で、アーモンド粉を練ったマジパンの団子を11個並べる飾りつけが特徴です。この数字はイエスの弟子12人のうち、ユダを除いた11人を象徴しているそうです。

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英語で調べると、高い確率で「light(軽い)フルーツケーキ」と紹介されているのですが、日本語ですと真逆の「ずっしり」「どっしり」といった記述をよく見かけるので、日頃感じていることですが、イギリス人との食に関する感覚の差に、あらためて気づかされます。

シムネルとは聞き慣れませんが、語源はラテン語のsimila(小麦粉)という説や、イングランドの王ヘンリー7世の厨房で勤務していたランバート・シムネル(Lambert Simnel)から来ているなど、諸説があります。

このケーキを母の日に家族で集まって食すのが、16世紀頃からの伝統的な慣わしでした。

マザリング・サンデーとは

最近では世界にならってマザーズ・デーと言うことも増えてきましたが、イギリスでは冒頭でお伝えしたように、もともとは「マザリング ・サンデー」と呼びます。なぜ違う呼び方なのかと言えば、そもそも本来の意味合いが、他国での母の日とは異なるからです。

その昔、お屋敷で働く女中さんなどをイースター期間中に里帰りさせるために、暇を取らせたことが関係しています。休みをいただいた使用人は、キリストの洗礼を受けた地元の教会=Mother Churchに出向き、家族で礼拝を受けることが大事なしきたりでした(参照: "Mothering Sunday in the United Kingdom" timeanddate.com 2021.)。イギリスのマザーは、この母体教会の母が由来しているわけですね。

イギリスにおけるマザーズ・デー

つまり本来の意味では、厳密に「母のための日」というわけではなかった、ということになります。この家族や親戚で集まって絆を深める慣習ですが、残念ながらマザリング・サンデーの言葉とともに19世紀までにはすっかり廃れてしまいました。

それが、形を変えて復活したのが現代版マザリング・サンデーとも言える、アメリカ生まれの「マザーズ・デー」です。20世紀初頭、アンナ・ジャーヴィス(Anna Jarvis)という女性が、平和と労働者のために働いた母を偲んで、命日に大きなイベントを開きました。これが大きな民衆の支持を得、1910年にウェスト・ヴァージニア州が州の祝日として母の日を認めました。

その後さらに1914年には、ウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)大統領が5月の第2日曜日を母の日と定め、イギリスにこの情報が広まったのは第1次世界大戦の頃、アメリカの従軍者によってでした。

また、時を同じくして、熱心なイギリス国教会徒であったコンスタンス・スミス(Constance Smith)という女性が、ジャーヴィスに刺激を受けて「新生母の日」普及に奔走しました。

1920年には『マザリング・サンデーの復活』と題した本も出版し、各地域の伝統やシムネル・ケーキなどの菓子を母に捧げる、といった慣習に再び光をあてました。

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そこに、グリーティング・カード会社といった企業が商機を見出し、いまでは「マザーズ・デー」として商魂たくましく、名実ともにアメリカ式の母の日がイギリスでも定着しました(参照: Gray, Kirsten. "What's the difference between Mother's Day and Mothering Sunday?" Family Wise Ltd March 2019.)。

母の日に贈るもの一例

イギリスのカード文化(関連記事)はクリスマスだけではありません。誕生日のほかに、母の日のような季節行事にも欠かさずプレゼントに添えます。バレンタインが終わるか終わらないうちに、スーパーなどの商店はすぐにMumの字が踊るカードであふれます。

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花がカーネーションというのは日本でもおなじみです。贈り物としては、定番チョコレートやマグカップなどのほかに、シャンパン、ハンドクリームなどのコスメグッズなどがあります。

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今年はまだまだロックダウン中でスーパー以外のお店はやっていないので、台所用品や額入りの絵、アクセサリーといったさまざまな物を、インターネットで名前を入れて特注するのも人気です。

筆者

イギリス特派員

パーリーメイ

2017年よりロンドン南部で家族と暮らしています。郊外ならではのコスパのよいレストラン、貴族の邸宅、城めぐり、海沿い情報などが得意です。

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