巨匠ルーベンスとジェノバ、知られざる関係

公開日 : 2018年09月09日
最終更新 :
筆者 : 浅井まき

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)といえば、美術に関心のある方なら誰でもご存知の、またはそうでなくとも名前くらいは耳にしたことのあるバロック美術の巨匠ですよね。2018年秋には東京で近年では最大規模の展覧会が開催されることからも、今とても注目すべき画家であろうと思います。

一方で、このルーベンスがイタリア滞在中に古典・ルネサンス美術を学び、外交官としても活動するなかで何度もジェノバに滞在していたことはあまり知られていないのではないでしょうか。今回の記事では、ルーベンスとジェノバの関係、そしてジェノバで見るべきルーベンス作品をご紹介します。

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(ルーベンス作品を2点所蔵するジェズ教会)

ルーベンスとイタリア

ルーベンスはネーデルラントの名家に生まれ、アントウェルペンで高い教育を受ける一方で画家としても才覚を顕します。1600年にイタリアへ赴き、マントヴァ公に仕えると、ヴェネツィア派の絵画技法やローマの古典美術、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロのセンスを吸収しつつ、教養や語学力を活かして外交官としても活躍するようになります。その後1608年までローマやマントヴァを中心にイタリア各地を転々としますが、本人の希望とは裏腹に以降イタリアの地へ戻ってくることはありませんでした。

ジェノバでのルーベンス

1603年にマントヴァ公の使者としてスペインを訪れた帰り際にジェノバを訪れたのが最初の縁になりました。その後、1605年、1606年、1607年とくり返しジェノバに滞在しています。

ジェノバで最初に出会ったのが、ジェノバ貴族でスペイン王室に仕える軍人のアンブロジオ・スピノラでした。当時30代前半であったスピノラは非常に優れた人格者として知られ、スペインの宮廷でもたちまち人望を集めてしまうような人物でした。ルーベンスともすぐに親しくなり、スペインやローマとの外交使節として雇ったほか、妻のブリジダの肖像画を依頼し、また当時のジェノバの有力者たちにも彼を紹介しました。

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(アンブロジオ・スピノラ:アムステルダム国立美術館所蔵、Michiel Janszoon van Mierevelt画、1609年。パブリックドメイン<ウィキメディア・コモンズより引用>)

ジェノバでの滞在はルーベンスにとっても意義あるものになりました。金融業で繁栄し莫大な富を誇っていた当時のジェノバの有力者たちは、目を見張るような壮麗さとバロック時代の新たなセンスを取り入れた邸宅を建設し、その内装を満たすべくローマやフランドル地方の流行美術をはじめ様々な美術品を購入するのに熱心でした。ルーベンスにも彼らの家族の肖像画を中心に次々大きな仕事が舞い込んできます。

フランドルで培った素養にヴェネツィア派のティツィアーノらに倣った色彩や質感描写を加えた作風は目新しく、ルーベンスの残した作品はその後のジェノバの画家たちに与えた影響も大きなものとなりました。

絵画の仕事をこなす傍ら、ルーベンスはジェノバの洗練された「ロッリ」の邸宅群をスケッチしました。1622年にはこれらを画集としてまとめ、"Palazzi di Genova"として出版しています。

ルーベンスの足跡をたどって、ジェノバの街歩き

今もジェノバに残っているルーベンス作品のなかでも、特に重要なものを巡るならば、やはり「ロッリ」の邸宅が立ち並ぶガリバルディ通りから出発するのが良いでしょう。

ガリバルディ通りの邸宅群はPalazzi di Genovaに描かれた当時の姿を残しています。現在博物館となっている白の宮殿(Palazzo Bianco)にはルーベンス作「ヴィーナスとマルス」が展示されています。この作品は中央に描かれた男性がドイツ人傭兵の格好をしているため「ドイツ人傭兵と恋人」と呼ばれていましたが、近年の研究により神話を題材としていることが確認されたものです。

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(ガリバルディ通り。写真奥の建物が「白の宮殿」。赤の宮殿、トゥルシ宮殿と共通入場券となっている)

ガリバルディ通りから狭い路地へ入って、次に向かうのはスピノラ宮国立美術館(Galleria Nazionale di Palazzo Spinola)。ここで出会えるルーベンス作品は「ジョヴァンニ・カルロ・ドーリアの騎馬肖像」。1606年のジェノバ滞在中、この直前にドーリアがスペイン王フェリペ3世からサンティアゴ騎士団に叙任されたことを祝うべく依頼されたものです。第2次大戦中にヒトラーの手元にあったことも注目すべき点でしょう。

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(ジョヴァンニ・カルロ・ドーリアの騎馬肖像。スピノラ宮国立美術館)

最後に、ジェノバの中心部デ・フェラーリ広場を聖ロレンツォ大聖堂の方へ抜けるところにそびえるジェズ教会(Chiesa del Gesù e dei Santi Ambrogio e Andrea)に向かいます。豪華で荘厳な内装が窓からの光を受けて金色に輝いて見えるとても美しい教会です。この教会の主祭壇画「キリスト割礼」はルーベンスが1604年に手掛けたもので、ヴェネツィア派の強い影響がうかがえる作品です。

ここにはルーベンス作品がもう一点あります。入り口側から向かって左側の祭壇に掲げられた「聖イグナシオの奇跡」は有力貴族のパッラヴィチーニ家の依頼により1619-20年に完成し、ジェノバに送られたものです。赤い祭司服を身に着けた聖イグナシオ(イエズス会の創始者のひとり、イグナシオ・デ・ロヨラ)が民衆に説教をする様子を描いています。

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(ジェズ教会外観)

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(ルーベンスの2作品)

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