ジェノバっ子を知るための5つのキーワード

公開日 : 2018年07月24日
最終更新 :
筆者 : 浅井まき

「イタリア人」というと、陽気で人懐っこくおしゃべり、ちょっと軟派でいい加減だけど憎めない...といったステレオタイプがありますよね。しかし、日本にも県民性が様々あるのと同様、もしくはそれ以上に、イタリアも地域によってかなり人の性質が異なります。今回は我々の考える「イタリア人」とは少し異なる、「ジェノバ人」についての考察を5つのキーワードを軸にまとめてみたいと思います。

"ケチ"?

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(漁師町のボッカダッセ)

イタリアでのジェノバ人の評判はどうでしょうか。実は、残念ながらあまり好かれていないようです。なぜなら、「ケチで不愛想」だから。

しばしば「ジェノバ人の"braccino corto"(直訳すると、短い腕。ケチであることの喩え)」と言われ、その度合いは折り紙付き。ジェノバ人を表す"genovese"という単語の類義語を検索すると、出てくるのは"avaro"(ケチな)、"tirchio"(けちくさい)、"spilorcio"(しみったれた)、"gretto"(狭量な)、"taccagno"(守銭奴)などなど...。他所の人間に対して冷たいというのももっぱらの噂で、愛想もケチるとか、滅多に人を食事に招かないとか...。

その根源を探ると、始まりは実に1588年、スペインの無敵艦隊(ジェノバの銀行家が多額の出資をしていた)がフランシス・ドレイク卿率いるイギリス軍に惨敗した際に多大な損失を被ったことから、他人(特に外国人)を信用せず、自分の財産を守ることに執心するようになったのだとか...。フランスの思想家モンテスキューがイタリア旅行記の中でジェノバ人の守銭奴ぶりを度々述べているのを見ても、何世紀も前から定着したイメージのようです。

もっとも、当のジェノバ人たちは「ケチじゃなくて、"倹約"なの!」と語っています。

"ムグーニョ"

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(美味しいお店も観光客のあまり立ち入らない路地裏に隠れていることが多いです)

イタリアには地方ごとそれぞれの方言がありますが、元は一地方の方言だったのが共通語に取り入れられる例もあります。最も有名なのは"Ciao!"ですね。じつは、「チャオ」はもともとヴェネツィアの方言でした。

そのなかで、ジェノバの方言から共通語に"昇格"したのが"mugugno"です。その意味は「ムグーニョ」という音の感じから連想できる通り、何かにつけて「ぶつぶつ文句を言う」ということ。道を歩けばこの地方の独特の言い回しである「ベリン」(日本語でいうところの「くそ」「マジで」くらいの使い方でしょうか)とともにあちこちから小さな文句を言う声が聞こえてきます。

ケチで不愛想な上に文句言いなんて、ジェノバ人って一体どんな人々なんだと言いたくなりますよね。でも、ここから先は彼らの微笑ましい一面をご紹介します。

"デルビー・デッラ・ランテルナ"

イタリアと言えば、サッカーのセリエA。最近ではクリスティアーノ・ロナウド選手のユヴェントス加入が決まり、盛り上がっているところですね。

ジェノバには「ジェノアCFC」「UCサンプドリア」の2チームが本拠地を置いていますが、市民の人気を二分するこの2チームは激しいライバル関係にあります。2者が直接対決するジェノバ・ダービー、通称"灯台ダービー(Derby della Lanterna)"は地元ではUEFAチャンピオンズリーグの決勝よりも白熱すると言われています。

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(イタリア1部リーグのサンプドリアとジェノア。昨季は各10位と12位)

ちなみに、ジェノバで一番有名な日本人はなんといっても「カズヨシ・ミウラ」。ジェノアでプレーし、ダービーでサンプドリア相手にゴールを決めた三浦知良選手は今でも彼らの記憶に残っていて、ジェノアのファンはニコニコ顔で、サンプドリアのファンは少々ふくれっ面で「彼はまだ現役でやっているんだって?」と聞いてきます。

"ファーベル"

イタリア音楽の中で有名なのは「オー・ソレ・ミオ」や「フニクリ・フニクラ」などナポリ民謡ですが、60年代~70年代頃、ジェノバを中心とした音楽ムーブメントがあり、数多くの名曲が世に出ました。ジーノ・パオーリ、ブルーノ・ラウツィ、ルイジ・テンコら通称"ジェノバ派"の"カンタウトーレ"(シンガーソングライター)達の中で、最もジェノバっ子の心をつかんでやまないのがファブリツィオ・デ・アンドレ(Fabrizio De André)です。

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(出生地のジェノバ・ペッリにある記念プレート)

「ファーベル」という愛称で知られる彼ですが、これは彼が普段使っていたドイツの鉛筆メーカーの名前をとったもの。詩的で情緒あふれる音楽はジェノバの街そのもののようで、市内のバールやレストランなどでもよく流れています。また、ジェノバの方言を取り入れた詞も多く残していて、ジェノバ方言の再評価においても多大な貢献をしました。

ご本人は1999年に亡くなっていますが、今の若い人にも非常に愛されていて、おすすめのイタリア音楽を聞くとしばしば真っ先に名前が出てくるほど。

「"ファーベル"を知ってるよ」と言うと、ジェノバの人は大変喜びます。

"ペスト"

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(スピノラ宮国立美術館内にある19世紀のキッチン。よく見るとペストを作る石鉢が...)

最後に、ジェノバっ子が一人残らず愛してやまないのが「ペスト・ジェノベーゼ」。

もう血が緑色をしているんじゃないかと思うほど、彼らはペストが大好きです。何ヶ月も食べずにいるなんてありえない、というほど。そのこだわりようは以前の記事()でもご紹介しましたが、美味しいお店を聞いたら最後に「絶対にペストを食べろよ!」と念を押してくることでしょう。

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(ポルト・アンティコ)

ステレオタイプではなかなか不名誉な評判を得ているジェノバっ子たちですが、実際に付き合ってみると意外に明るくお茶目で、少なくとも根は優しい人々です。(やはり少々こせこせしているのは確かですが...)所謂"ツンデレ"なのかもしれません。

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