タイ語オンラインスクール講師のタイ人女性が語る「語学学習で大切なこと」

公開日 : 2021年08月25日
最終更新 :
筆者 : 日向みく

タイ語オンラインスクール講師として働く、チェンマイ出身のウェルさんに、「日本人向けのタイ語講師」になるまでの道のりやタイ語習得のコツ、オンラインレッスンの活用法などについてうかがいました。

彼女のたくましい生き方からも、大きなパワーをもらえるはずです。

来日のきっかけは日本の漫画「本場の寿司が食べたかった」

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――それではウェルさん、まずは簡単な自己紹介をお願いします。

日本の皆さん、こんにちは。チェンマイ出身のウェルです。大学卒業後にボランティアで1年間日本に住んだ経験があり、その後はバンコクの日本食レストランなど、日本語を生かせる職場で働きました。

現在は「オンラインタイ語教室 タイGO!」というタイ語オンラインスクールの講師を勤めていて、今年(2021年)で5年目になります。

――大学卒業後にボランティアで日本に来られたということですが、そのきっかけはなんだったのでしょうか?

これを聞いてみんなびっくりするんですが......「本場の寿司を食べたかったこと」が最大の理由なんです (笑)。『江戸前の旬』っていう日本の漫画をご存じですか? 小学校のときにその漫画にどハマりして、「日本の寿司」に対して強い憧れを抱くようになりました。

初めてタイの寿司バーに行ったとき、あまりのおいしさに感動。とくにイクラが最高で...... そこからさらに「本場の寿司が食べたい!」という欲求が高まり、ならば日本に行こうと決心して2012年に来日しました。

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ウェルさんの来日きっかけとなった漫画『江戸前の旬』

――なんと。来日のきっかけは「お寿司を食べたい」という純粋な欲求からだったんですね。すごい行動力......!でも、なぜボランティアだったんでしょうか?

当時、タイ人が日本に渡航するのは、すごく難しかったんです。今みたいな観光ビザはなかったので、留学ビザで行くことにしました。

日本政府主催の「外国人向けボランティア」に申し込んだら運よく通って、飛行機のチケット代以外はすべて負担してもらい、1年間日本に滞在することができました。これが私にとっての人生初海外です。

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ウェルさんのボランティア時代(岡山県の倉敷美観地区にて)

――初海外でいきなり1年間のボランティアとは勇気がありますね。怖くはなかったですか?

当時は日本語力ゼロですし、不安な気持ちも少しありましたが、とにかく楽しみでワクワクしていました。

昔から父が「やりたいことをやりなさい」「機会があったらチャンスを掴みなさい」と言ってくれていて、その精神を受け継いでいたのかもしれません。

恥じらいやプライドを捨てたら語学力が伸びた

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香川県の小豆島に向かうフェリーにて)

――日本に1年間住んでみて、大変なことはありましたか?

はい、たくさん(笑)。とくに言葉です。最初は日本語がまったく話せず、伝えたいことがあってもうまく伝えられず、苦労しましたね。

友達とコミュニケーションをとることすら難しくて、人間関係に悩んだこともありましたし、日本語がうまく話せない自分にフラストレーションを抱えていました。

――その試練はどうやって乗り越えたのでしょうか?

あるときいろんなことがうまくいかず、辛くなってしまって、タイにいる恩師に電話で相談したんです。そしたら、「いまの自分をとりあえず認めてあげたらどう?」とアドバイスをもらいました。「できない自分を受け入れられていないから、苦しいのよ」と。

その言葉を受けて、私なりに努力しました。日本語がうまく話せないことへの「恥じらい」や「プライド」を捨てるのは、正直言って、心にかなり痛みをともないました。でも、「これは新しいことを学べるチャンスなんだ」となんとか気持ちを切りかえて、分からないことは「分からない」と積極的に質問するようにしたら、驚くほどに気持ちが楽になったんです。

結果的に語学力もグンと伸びて、人間関係も良好になりました。大変なこともあったけど、周囲の環境や人には本当にめぐまれて、楽しいことのほうが圧倒的に多かったですね。自分の内面と向き合うことで「新しい自分」を発見することができたし、世界が大きく広がりました。心から「日本に行ってよかった」と思っています。

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香川県のレオマワールドにて

――実際に日本に住んでみて、イメージと違うと感じたことはありましたか?

とくになかったです。日本人は本当に優しくて、四季を感じられるのも新鮮でした。たとえば春にお花見をする光景を見たときは「漫画で見た世界そのままだ! 夢みたい!」と感動しました。ほら、タイって年中暑いので、公園でレジャーシート敷いてピクニックとかあまりしないんですよ。

念願だった本場のお寿司も、想像どおり最高においしかったです(笑)。

――ウェルさんの日本語はとても流暢ですが、それはボランティアの1年間で身につけたのですか?

いえ、当時はいまほど流暢には話せませんでした。むしろタイに戻ってからのほうが日本語力は伸びましたね。

バンコクの日本食レストランで働いていたときは、着物を着て会席料理を運んだり、日本人のお客さんの接客をしたりするなかで、日本語や日本食に対する理解を深めました。「何名様ですか?」とか「ご注文をおうかがいします」といった、普段使わないような敬語を学べたのもおもしろかったです。

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日本食レストランで働きながら日本食や日本語の理解を深めた

あとはドラマや音楽ですね。たとえば石原さとみさん主演のドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子 』が大好きで何度も繰りかえし観たり、「Mrs. GREEN APPLE」というロックバンドにハマって歌に出てくる単語の意味をチェックしたりしたことは、日本語力アップに絶大な効果がありました。

勉強しなきゃいけないから勉強したというよりも、好きで観たり聴いたりしているうちに自然と上達していったんです。いまこうしてタイ語の講師をしているのも、日本の漫画とドラマと音楽にハマったおかげですね。「好き!」「楽しい!」の力はすごいなぁとあらためて感じます。

オンラインレッスンを利用したタイ語習得のコツとは?

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――現在ウェルさんは日本人向けのオンラインタイ語講師として勤務されていますが、生徒さんに多い悩みって一体なんでしょうか?

とくにタイ語の「発音」や「リスニング」に苦労している方が多い印象です。タイ語は日本語に比べて母音や子音の数が圧倒的に多いですし、慣れるまでたいへんですよね。語学の上達に近道はないので、リスニングについては聴きとれるようになるまでとにかく何度も何度も繰り返し聴くことが大切です。

発音向上やスピーキング上達におすすめなのは「ボイスレコード」。スクリプトはなんでもOKです。自分の声をICレコーダーやアプリで録音して、それを客観的に聴いて発音・リズム・イントネーションなどをチェックしてみてください。好きなタイ語の曲があれば自分の歌声を録音し、原曲と聴き比べてみるのもいいですね。

経験がある方も多いと思いますが、自分が認識している自分の声と、客観的に聴く自分の声って全然違うんですよね。ボイスレコードを残しておくと、練習の成果を実感できていいですよ。私は「smule」という無料のカラオケアプリをよく使っています。タイ語の歌もあるのでおすすめです。

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――タイ語を習得するにあたり、オンラインレッスンを利用したおすすめの勉強法はありますか?

タイ語を学ぶ目的によって勉強法は変わるので、まずは「目的を明確にすること」が大切ですね。

受験合格が目的の方は、レッスンで「3ヵ月後にタイ語検定の試験があるのでそれに向けて勉強したい」などと相談してもらえると、本番までにどのようなプロセスで勉強するか、テキストは何を使うか、などについて一緒に考えることができます。

ビジネスで使えるタイ語を学びたい方は、職場でよく使う単語や専門用語があればそれをメモしてもらい、レッスンでそれらを集中的に学んでいただくと効率がいいと思います。「来週の会議で自己紹介をしなければいけないので、一緒に考えてほしい」といった要望ももちろんOKです。時間に余裕がある方は、テキストを使って基礎からしっかり学ぶこともできますし。

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旅行や日常生活で使える簡単フレーズを学びたい方は、文法やタイ文字はあとまわしで大丈夫。知りたい単語やフレーズがあったら、レッスンで遠慮なく教えてください。教科書的ではない、普段私たちネイティブが使っているナチュラルな言い回しを一緒に学んでいきましょう。

最近急増しているのがタイドラマきっかけでタイ語に興味が湧いたという生徒さんです。いまは『2gether』などのタイドラマが大人気ですよね。ドラマには市販のテキストに載っていない表現が頻出しているので、ドラマのリンクや好きなアイドルが出演している番組のリンクを送ってもらえば、それを教材としてレッスンすることもできますよ。

最近ではファンとアイドルが交流できる「ビデオコールイベント」もあるので、タイ語で質問したり気持ちを伝えたりするための言葉を一緒に考えることもできます。

――なるほど。生徒の目的に合わせて柔軟にレッスンをしてくださるんですね。そのほかにタイ語の勉強で大切だと思うものはありますか?

ご自身が「好き! 楽しい!」と思えるものを教材に選ぶことです。市販教材でも漫画でも音楽でもドラマでもなんでもいいのですが、やっぱり「好きこそ物の上手なれ」なんですよね。語学にかぎりませんが、勉強を楽しめると成長スピードも格段にアップします。

あとおすすめは「タイ語日記」。短くていいのでタイ語で日記を書いてもらって、それをレッスンで添削します。毎日積み重ねていくとものすごい力がつきますよ。

大切にしているのは「生徒さんの悩みに寄り添うこと」

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――ウェルさんがオンラインレッスンをするときに、大切にしていることはなんですか?

それぞれの生徒さんの悩みに寄り添うことです。語学って本当に終わりがなくて、勉強し始めてすぐに上手になるわけでもないですし、継続するのはなかなかたいへんですよね。

私自身が語学で苦労した経験があるからこそ、生徒さんのたいへんな気持ちがわかるんです。レッスンでは「なぜできないのか」ではなく「どうやったらできるようになるか」を一緒に考え、生徒さん一人ひとりの悩みについて向き合っています。

――最後に、タイ語学習者に向けてメッセージをお願いします。

語学を通じて新しい世界の扉を開くことができるのはとても楽しいです。私自身、日本の生徒さんとのレッスンを通じていろんな価値観・考え方・生き方にふれ、日々たくさんのことを学ばせてもらっています。

私の生徒さんは本当に皆さんすてきな方ばかりで、いつも感謝しています。オンラインならいつでもどこでも気軽にレッスンを受けられますし、興味がある方はぜひ一緒に楽しくタイ語を学んでいきましょう♪

◇インタビューを終えて

実は私自身がウェルさんの生徒であり、レッスンを受けるなかでとてもすてきな女性だと思って今回インタビューを依頼しました。気さくで親しみやすく笑顔がすてきなウェルさん。そのチャーミングな見た目とは裏腹に、やりたいことを貪欲に楽しむ度胸のある生き方に刺激をもらいました。彼女が言うように、語学は私たちの世界を広げてくれるすばらしいツール。タイ語やオンラインスクールに興味がある方にとって、このインタビュー記事が何か参考になればうれしいです。

筆者

タイ特派員

日向みく

バンコク在住ライター。中南米やアフリカ、中東を含む世界43ヵ国を訪れた旅好きです。

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