バンコクの混沌とその魔力|なぜ人は魅せられるのか

公開日 : 2021年07月21日
最終更新 :
筆者 : 日向みく
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サワディーカー、バンコク特派員のぴっぴです。今回は、私が暮らすタイの首都バンコクについて少し掘り下げて紹介します。

そこは近代的な世界有数の国際都市。いっぽう歴史ある寺院やひしめきあう屋台文化などが色濃く残り、新旧が交錯する混沌と喧騒に満ちた場所でもあります。そんなバンコクの虜になった人は数知れず......

なぜバンコクは人々の好奇心をかきたて夢中にさせるのでしょうか。バンコクをバンコクたらしめているものとはいったいなんでしょうか。その魔力ともいえる不思議なパワーと独特な個性について、バンコクに魅せられたひとりである私が在住者目線で考察してみます。

煌びやかな大都会としての顔

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▲写真:商業施設「アイコンサイアム」の噴水ショー

大都会、バンコク。中心部には高層ビルがあちこちにニョキニョキと建ち並び、高級感あふれる大型ショッピングモールではシーズンごとに華やかな装飾がほどこされ、年中人々の目を楽しませてくれます。

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▲写真:商業施設「エンポリアム」の華やかな装飾

ハイソなバンコク市民が集う場所はキラキラと眩しく、町のあちこちには洗練されたおしゃれカフェ。若者を中心にインスタ映えスポットやイベントなど新しいカルチャーが次々と誕生し、飽きることがありません。

ラグジュアリーなルーフトップバーで夜風に吹かれながらグラスを傾けるのも、バンコクらしい粋な楽しみ方のひとつ。宝石を散りばめたような眩い夜景を眺めていると、この大都会から解き放たれるエネルギーを受けて開放的な気分になります。バンコク中心部を流れるチャオプラヤ川沿いの夜景も息をのむ美しさ。

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▲写真:バンヤンツリー最上階のルーフトップバー「Vertigo&Moon Bar」

バンコクは新陳代謝が活発です。あらゆるものが生まれては消え、生まれては消えを繰り返し、まるで町が生きているかのよう。時代に合わせて柔軟に変化し続けているのです。

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▲写真:「マハナコンタワー」頂上からの360度パノラマビュー

昔ながらの異国情緒あふれる「旧」の顔

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いっぽう高層ビル群の狭間の路地に一歩足を踏み入れると、そこでは異国情緒あふれる庶民的なバンコク市民の生活を垣間見ることができます。昔より数は減ってきていますが今も屋台文化は健在で、むせ返るような熱気と喧騒のなか気の赴くままに歩いていると、東南アジアらしいエキゾチックな香りに血が騒ぎます。

ローカル市場に行けば、野菜・果物・香辛料・乾物・生肉・生魚などあらゆるものが混ざり合ったムッとする臭い。彼らの暮らしの息づかいを感じられ、自分もそのなかに溶け込んだ気分になれます。

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仏教徒が大半を占めるタイ。バンコクでもそのいたるところに歴史ある荘厳な仏教寺院が点在しています。その様式は非常に多彩で、東洋から西洋まであらゆる文化が融合し、それでいて妙に調和がとれているのがおもしろいところ。

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▲写真:仏教寺院「ワット・ベンチャマボピット(大理石寺院)」

またタイは厳しい格差社会であり、バンコクはその縮図とも言えます。路上を歩けばあちこちで物乞いの姿を見かけ、町の中心部にはスラムも存在します。バンコクの華やかな大都会の顔を「光」とするならば、「闇」も多く抱えているのです。

伝統と革新、近代的ビルと廃墟、富める者と貧しい者、変わりゆくものと変わらないもの......あらゆるものがごちゃまぜになり、そのコントラストから生まれる混沌が人の好奇心を刺激し続けているのもまた事実でしょう。

混じり合うタイ仏教とヒンドゥー教

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タイに来たばかりのとき、町なかでヒンドゥー教の神々の祠を頻繁に見かけて「タイは仏教国なのになぜ?」ととても不思議でした。実はタイ仏教のルーツはヒンドゥー教と同じ「バラモン教」。その影響で多くのタイ人が、仏教の神々と同じようにヒンドゥー教の神々のことも信仰しています。

たとえばタイではヒンドゥー教の神様ガネーシャも「商売繁盛と学問の神」として大人気。バンコクで有名なパワースポット「エラワン廊」ではその中央にヒンドゥー教三代神のうちの「ブラフマー」が祭られていて、いつも多くのタイ人でにぎわっています。私も20バーツでお花・線香・蝋燭を購入し、参拝しました。

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▲写真:ヒンドゥー教祠「エラワン廊」

ビジネス街のシーロム通りにあるバンコク最大のヒンドゥー教寺院「スリ・アリアマン寺院」を訪れたときは、参拝者の多くがタイ人であることに驚きました。このようにひとつの宗教の枠におさまらない寛容さ・柔軟さも「タイらしさ」といえるでしょう。

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▲写真:ヒンドゥー教寺院「スリ・アリアマン寺院」

人種・民族が融合し調和がとれた多民族都市

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タイは長い歴史のなかでいくつもの民族が融合しながら独自の発展をとげてきました。バンコク市民の大多数は「タイ族」とされていますが、実際にはその多くに中華系・インド系・マレー系などの血が流れています。

イギリス出身の作家フィリップ・コーネル・スミス氏は著書『Very Bangkok』のなかで、タイにおける混血や多国籍化をコーヒーに例えています。

"モン・クメール語族のロブスタコーヒーをポットで1500年蒸し、タイ族のアラビカコーヒーを800年加え、華人のミルクを700年注ぎ入れ、それをマレー式のフィルターで濾し、インド人のスパイスや西洋人のウイスキーを500年かけて入れたようなもの。そして新しくブランディングされたのが『カフェ・タイ』だ"  

(出典:Philip Cornwel-Smith著 『Very Bangkok』p.185)

バンコクには各コミュニティごとの居住区が点在していますが、もっとも大きいのが「華人居住区」です。バンコク旧市街にある中華街「ヤワラート」。ここは1800年代に中国移民がつくった集落で、現在も多くの中華系タイ人が暮らしています。

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▲写真:バンコクのチャイナタウン「ヤワラート」

中国語の看板が立ち並び、雑多な雰囲気とムンムンとした熱気のなか、多くの人でごったがえすチャイナタウン。しかしここに住む中華系タイ人の多くは何世代にもわたる混血とタイ政府による同化政策が進むなかで「中国人」としてのアイデンティティはほとんどなく、タイ語を話しタイ料理を食べ、アイデンティティの面でもタイ人化しています。

これは中華系に限ったことではなく「インド系タイ人」「マレー系タイ人」「クメール系タイ人」のようにタイと人種をつないでタイ人として同化し、タイ社会にうまく溶け込んでいるのです。

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中華圏の正月である春節の時期を迎えると、人々は赤い服やチャイナドレスを身にまとい、ヤワラートは盛大な祝賀モードに包まれます。こういった節目になると中国らしさが顔を出すのはおもしろいですね。

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ヤワラート周辺を散策していたとき、イスラム教徒の祈りの時間を知らせるアザーンが響きわたり、気づかぬうちにムスリム居住区に迷い込んでいたことに気づきました。このようにまったく性質の異なるコミュニティが隣り合っていることもよくあります。無秩序のように見えて不思議と調和がとれている、それがバンコクです。

こちらの写真はムスリム料理店で食べたイスラム系タイ料理「カオモッガイ」。タイの多様な民族や人種の融合の歴史は、その食文化にも大きく影響していることがわかりますね。

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多民族都市バンコクでは各コミュニティが適度な距離をたもちながら、互いのカルチャーを否定することなく、ある意味で心地よい無関心さがあると感じています。その無関心さが絶妙なバランスを生み、さまざまな人種や民族、宗教が混じり合うなかでも穏やかに共生できているのでしょう。

あらゆる多様性を受け入れる懐の深い場所

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▲写真:バンコクの大人気バル「El mercado( エルメルカド )」

バンコクは私たち外国人に対してもとても寛容な場所。日本・西欧・中東・アフリカ・その他アジア諸国など世界各国の出身者が暮らす人種のるつぼですが、どんな多様性をも受け入れてくれるバンコクの懐の深さに救われ学ばされることは多いです。

私も外国人在住者としてバンコクで暮らすうち、知らず知らずのうちにこの町に愛着がわき、市民権があるわけではないのに帰属意識のようなものが芽生えていることに気がつきました。バンコクはこうして多くの人に愛され、長期滞在者や旅行者にとっても第2の故郷になっていくのだと思います。

カオスが人々を惹きつける

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混沌に満ちた大都市、バンコク。そこから解き放たれるエネルギーは、絶え間ない変化から生まれています。煌めく夜景、喧騒、悪臭、熱気......そのすべてが人々の五感を刺激し魅了していきます。

現在のバンコクは新型コロナウイルスの影響でロックダウンが敷かれ、以前のような活気が失われてしまいました。コロナ前のありふれた日常の尊さを痛感する日々です。行動が制限されるなか、カオスなバンコクの空気感が猛烈に恋しいという方も多いのではないでしょうか。

早く事態が収束してバンコクが以前のような姿を取り戻し、日本とタイを自由に行き来できる日が訪れることを願っています。私も引き続き、バンコクの今を発信し続けていきますね。それでは皆様、また次の記事でお会いしましょう!

筆者

タイ特派員

日向みく

バンコク在住ライター。中南米やアフリカ、中東を含む世界43ヵ国を訪れた旅好きです。

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