No.222フランスのアペリティフのお伴は...
日本でよく使われる台詞「飲みに行こう」という誘いの言葉は、フランスではあまり聞きません。それに相当する表現がないわけではありませんが、日本のようにポピュラーな使われ方はしていないように思います。
おそらく、フランス文化では、「アルコールを飲むこと」と「食事をすること」が強く結びついているからではないかと、考えたりしています。
実際、フランスでは、「コーヒー飲もう」と同じくらい頻繁に、「今度一緒に食事をしよう」という台詞を耳にします。
"一緒に食事をしたことがあるかないか"で、親密度がぐんと変化するのもフランスならではかもしれません。
食事中に飲むアルコール、基本は言わずと知れたワイン。
では、それ以外のアルコールはいつ飲むの? と思われた方。
そのために(?)あるのが、アペリティフ(食前酒)です。
アペリティフというのは、着席して食事をする前に、歓談しながら嗜むアルコールのことで、人数の多いパーティなら立ったままですし、小規模なディナーでも、食堂とは異なる場所にセッティングするのが普通です。
自宅での夕食会なら、食堂ではなく、サロンに準備したり、同じ部屋でも、食事をするテーブルではなく、ソファーテーブルに準備します。
互いの面識がない人たちを招いた場合は、このアペリティフの時、ホストがお互いを紹介しあい、皆で共有できる話題を持ち出したりと、イントロダクションのような役割を持つ時間帯でもあります。
このアペリティフ。種類も豊富です。ビールやシードル、シャンパーニュを飲むのも結構。ポルトやポモー、マルティニのような甘いアルコールもあり。ウィスキーやコニャックもOK。キールやカクテルなどアルコールを混ぜたもの。または、甘味の強いワイン(ソーテルヌ)やアニス味のパスティスなども選択肢としてあり得ます。
ただし、たくさん飲むものではなく、普通は、多くても2杯まででしょうか。
未成年や妊婦さんなど、アルコールが駄目な人はどうすればいいの?
ご安心ください。その場合はフルーツジュースや、トマトジュースなどが飲めます。
ただし、お茶やコーヒーのようなホットドリンクは、基本的にNGです。
招待客によっては、ジュースがメインになることも
さて、このアペリティフの時間に食べるのがおつまみ。
こちらも、いろんな種類がありますが、手のかからないものから並べてみると、次の9種でしょうか。
1) ポテトチップスやクラッカーなど、塩味スナック系。(最近では、日本のおかきも、アペリティフ用に売られています)
2) いわゆるナッツ系(フランス人に人気なのは、ピスタチオナッツ)。
3) 生ハム、ソーシソン(日本でいうサラミに似ている)などの加工豚肉系。
4) クラッカーやトーストにパテやクリーム、海老や野菜などを載せたカナペ。
5) プティトマト、ラディッシュ、フィンガー野菜などの生野菜。
6) アペリティフ用に小さく加工されたチーズ類。
アペリティフ用チーズたち
7) オリーブとベーコン入りとか、蟹とチーズ味など、塩味のケーキ類(フランス語でもCakeケクと呼ぶ)。
スーパーでも売られているcake
8) グージェール(チーズ味の小さいシュー)や、ミニパイなど塩味ミニケーキ。
9) ヴェリーヌと呼ばれる小さな透明容器に彩りよくムースや野菜を入れたもの。(これは少し大きければ、食事のアントレとして供されることもあります)
お惣菜屋さんのヴェリーヌ
読んでお分かりのように、甘いものはありません。アペリティフのアルコールには、糖度が高いものが多いので、おつまみは自然と塩味になったのでしょうね。
もう一つの特徴は、最後のヴェリーヌ以外は、すべて手でつまむか、ピックで刺すかして食べられるものだということ。
日本の細巻き寿司なども、最近ではアペリティフのおつまみとして人気のようです。
上のリスト、何も全部準備しないといけないわけではありません。普通のディナーなら、その日の料理に合わせて、(魚料理なら、アペリティフに生ハムを出すというように)重ならないものを準備したり、季節や、招待客の好みに合わせて、2,3種類準備すれば十分です。スーパーやお惣菜にも、たいていのものは揃っています。
スーパーで売られているおつまみの例
アペリティフの間に、客をリラックスさせるのもホストの役目。話好きな一人がその場を独占しないよう、まんべんなく話題を振って、雰囲気の演出をするわけです。アルコールとおつまみは、いうなればその補助ともいえるかもしれません。
そうそう、時には、アペリティフだけの招待ということもあります。日本でいう「お茶会」のような感覚ながら、時間帯がもっと遅く、飲むものがアルコールというのがその違いです。
なかなか奥の深いアペリティフの時間。まだまだアペリティフに関する話は山ほどありますが、とりあえず今日のところは、「おつまみ」についてということで、この辺で...
(8月お題"おつまみ")
(冠ゆき)
筆者
フランス特派員
冠 ゆき
1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。
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