モントリオールの「カナダ鉄道博物館」への旅(3):街の記憶に触れる

公開日 : 2015年05月24日
最終更新 :
筆者 : MAKOTO
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「街には記憶がある」

モントリオールを旅して、今回心に浮かんだことばです。

「記憶」は人間個人の心に収められているものとすると、そこには目で見る建物や土地の風景や手で触ることができる質感、耳で聴く街のざわめきや行く人々の話すことばといった、「五感に語りかけられる何か」のようにも考えられます。

見ず知らずの街を旅する時に感じる何かは、かつてそこに住んでいた人々や文化、あるいは土地の記憶の中を歩く時に絶えず何かによって語りかけられる経験というように言えるかも知れません。

モントリオール到着

いきなり難しいことを書きましたが、列車は5時間かけ予定通り正午前に到着し、駅を出て街へと繰り出します。

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トロントのユニオン駅と比べると現代的で、駅のコンコースには人でごった返していたのが印象的でした。

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外に出ると、とにかく暑い。最初の目的地は、駅から徒歩で5分ほどのレンタカー営業所で、iPhoneのGoogle Mapを頼りに徒歩で向かいます。近くまで来ると目の前に観光局が運営している観光案内所が見えたので、念のため今日訪れる予定の鉄道博物館について何か現地情報はないものかと尋ねることにしました。

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入り口側で番号チケットを取って待つ形になります。

まさかの予定変更

自分の番が来たので「さっきVIA鉄道で駅に着いたばかりなのですが、これからレンタカーを借りて鉄道博物館に行きたいと思います」と告げ端末で基本情報を表示させてくれたのですが、「今日はお休みですよ」と。

「え!」

よくよく聞いてみると、「5月初旬までは週末のみの営業」という注意書きを見逃していました。

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2015年は、5月16日〜6月23日が毎日午前10時〜午後5時。6月24日〜9月7日は時間が1時間延びて午後6時まで。9月9日〜10月31日は元に戻って午後5時閉館。

そして、11月1日〜翌年の5月8日までは週末のみ(土・日)午前10時〜午後5時の営業時間になります。私が訪れたのは、週末のみ営業の時期でした・・・・

「よく調べたつもり」なのですが、そこは素人の旅。落とし穴はどこにでもある、と冷や汗がどっと出ます。気を取り直して「週末ということは、明日は営業しているのですね?」と聞くと「明日は午前10時開館です」と教えてくれたので、とにかく訪れることができるのであれば良し。ホッと胸をなでおろします。

自分の蒔いた種とはいえ、突然の予定変更が起きたのですから計画の立て直しを。とりあえず地下でお手洗いを済ませ、カフェテリアに腰を下ろして考えます。というのも、当初レンタカーは午後1時スタートで翌日の正午返却の予定(24時間)。計画では今日は午後じゅう鉄道博物館で過ごし、明日午前中にレンタカーを返却して市内でゆっくり過ごそうと考えていましたが、これだと明日鉄道博物館を訪れる時間がほとんど取れません。とにかくレンタカーの営業所に行き、できるだけ遅い時間にずらしてもらうしかありません。

営業所は目の前でしたから、早速カウンターで事情を説明したところ、最初に話していた窓口の女性はちょっと渋ったのですが、隣の若い男の子が「平気、大丈夫」と言い、さっさと端末を開いて時間変更をしてくれたのには、助かりました。カナダの場合、自分を担当してくれる人が親切かどうかで結果がかなり変わるということを散々経験してきていますから、この時は本当にラッキーでした。さらに「帰りの飛行機は午後6時」という話をしたところ、「それなら空港でクルマを返したら効率的」とさらなる変更のアレンジをしてくれました。これで明日はゆっくり時間が取れます。

予定変更が無事済んだので、気を落ち着けて4時までの3時間をどう過ごすかを考え、明日にと考えていた「ポワンタ・カリエール考古学歴史博物館」へ向かうことに。

街は、何かの記憶に満ちていた

Google Mapを開くと徒歩20分ほどという表示が出ていたので、当初予定になかったものの重たいバッグを肩から下げ、とにかく歩くことにしました。この時の気温は24度。この季節にしては珍しく夏のように照りつける太陽のもと、大汗をかきながらダウンタウンを歩き始めたのが午後1時半頃。トロントを早朝に出発したため下着にヒートテックを着ていたことを思い出すもののどうにもならず、水を飲みながら目的地を目指します。

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少しずつ気分が落ち着くにつれ街の空気を感じることができるようになり、シャッターを切る余裕がでてきます。もし妻と一緒だったと、ゾッとします。旅のコーディネーター失格の烙印を押されてしまいます。

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トロントで暮らして18年。同じ国内でたった5時間しか離れていない街を歩いているとは思えないような空気感が、モントリオールにはあります。

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看板のフランス語がこの感覚を呼び起こしているのだとしたら、「カナダの歴史の底流に流れている二つの国の文化の記憶とは、どういったものなのか?」などと考えながら歩いていると、目的の博物館が目の前に見えてきます。

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パティオでビールが飲みたい・・・

博物館に到着してみると・・・・

正直に告白すると、今回の旅についてはこの日に向かうはずだった鉄道博物館以外はほとんどと言って良いほど何も調べてはいませんでした。「それじゃ、ダメです」というレベルですね。鉄道の歴史を見たら、夜にホテルで翌日の予定を考えれば良いという安易な目論見が崩れ去り、こういうことになってしまったわけです。

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ドアを開け、がらんとしたホールの奥にある受付で「入場券を大人一枚下さい。それと、初めて来るのですが、ここはどういう場所でしょうか?」と、今思えば間抜けな質問をしてしまったのですが、そんな私に対して受付の女性は丁寧に「ここはモントリオールが生まれた場所(Birth place)です・・・」とわかりやすく館内についての説明をしてくれました。

経験的に、カナダ人は困っている人には優しいと感じています。言葉で具体的に困っている内容を伝えれば、必ずできることはしてくれます。旅の場合、ガイドブックを片手に持って歩くのは、あまりオススメしません。「あ、この人ガイドブックを持っているなら、読めばいいわ」と親切心が出ません。ストリートに出たら、ひとまずガイドブックはしまいましょう。必ず(たぶん)親切に教えてくれる人が現れるはずです。

早速順路に従い地下に降りると、目に飛び込んで来たのは、予想していなかった「展示」を超えた圧倒的な世界観でした。

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一つは、積み上げられた石。

もう一つは、カナダに最初にやってきた人類がモントリオールで暮らしていた歴史。

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ちょうど自分のブログでカナダ史を学んでいた所だったので、カナダに移住してきた最初の人類の歴史についてはある程度知識があったことが幸いして、後者については一目で分かりました。博物館での展示をより良く理解するために、予備知識は大きな助けになります。

カナダに人類が定住した経緯とモントリオールの関係

カナダのあるアメリカ大陸は、人類にとって長く孤立していた「ラスト・フロンティア」と呼ばれる場所。アフリカで誕生した人類が徒歩でここにたどり着くまで、なんと300万年という時間がかかりました。

今から1万数千年前、地球を襲った最終氷期であるウイスコンシン氷河期が終わろうとしていた時代。当時は海面が今より低かったためにベーリング海峡は地続きでした。そこを徒歩で渡り、アラスカから海沿いを伝うルートと、ユーコン準州を通り大陸内部へと進むルートでやってきた人々が、この大陸の人類の祖先。彼らは五大湖周辺から、川を伝い現在のモントリオール、ケベックを通り大西洋岸へと到達したと考えられています。

かいつまんで言うと、これが「コロンブス以前」と呼ばれるアメリカ大陸でのカナダ史、ということになります。

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このパネルはカナダの人類史におけるセントローレンス川との関係性を説明するために展示されているものですが、カナダの博物館でこれほど詳細なものはなかなかお目にかかることができない力作です。

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モントリオールは地形的に言うと大きな島になっていて、東の境界線はセントローレンス川。ちょうど博物館が建っている場所は、かつて流れていたSt. Pierre川が合流する場所で、古くからカナダ先住民が好んで住処としていた要所だったようです。

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1603年にニューフランスの父と呼ばれたシャンプランもここを滞在地として選び、1611年には「Place Royale」という毛皮交易の拠点となる「Trading Post」を作ります。40年後の1642年になるとフランス人メゾンヌーヴが同じ場所に教会と住居を建て、「Ville-Marie」という初めてのフランス人入植地が生まれます。

ここでは年一度の割合で周辺に住むカナダ先住民が集まり、毛皮の交易を行う習慣が定着し、後に「Place du Marché」という市場が立つようになりました。

モントリオールの始まりの記憶

博物館が建っている場所1643年に入植地の隣に作られた最初の墓地で、発掘調査の終了後1992年にモントリオール誕生350周年の記念行事の一環で発掘跡を保存しつつその上に建てられるというユニークな経緯を持っています。

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カナダ先住民がフランス人と出会った時には友好的な関係があったと言われていて、この墓地には2つの民族が共に葬られています。もちろん、ヨーロッパ人がカナダを訪れた理由は、重商主義に後押しされた「富の獲得」にありましたから、アメリカ大陸全土で略奪や戦争が行われる悲しい記憶は歴史から消し去ることはできません。

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しかし博物館のあるこの場所には、モントリオールという街が誕生したその初期に、2つの民族が互いに友好的に暮らしていたという美しい記憶が刻まれていて、そうした視点からさらに前に進んで行こうとする知恵があるように思えてなりません。

2つの文化がここで出会ったのだという事実をこの目で見るという体験こそが、この場所の最も意図する所。今では大きく発展しカナダ第2の規模を誇る商業と文化都市となったモントリオールの原点に触れることができました。

レンタカーを借り、モントリオール郊外へ

博物館見学を終え、お隣の建物の2階にあるギフトショップで展示の図録を買い求めた後、徒歩で駅の近くにあるレンタカーの営業所に戻り、クルマを借りて市内のホテルにチェックイン。ようやく荷物を置いて夕方、サマータイムのためまだ日が明るいので郊外へと出発です。

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次回は、カナダ初の鉄道に関するモニュメントを探しに行った顛末について書いてみます。

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