一ツ星獲得、Lukeシェフの新生Bacchanaliaの新メニュー

公開日 : 2017年07月19日
最終更新 :

もともとミシュラン一ツ星の店でしたが、去年12月にLukeシェフが就任、シェフが交代しても星が保てるのか、食通たちの注目を集めていたバカナリア。

発酵などのテクニックを多用し、独自の複雑味のあるモダンヨーロピアンを提供していたIvanシェフに比べて、酸味とクリアな味の構成で、 また違った個性を生み出しているLukeシェフですが、見事自身のスタイルで一ツ星を獲得しました。Ivanシェフの最終日、そして1月、4月、そして今回の7月と、4回に渡って訪れましたが、就任から7ヶ月経ち、春にスーシェフのDelfo Schiaffinoさんが加わっていよいよ本領発揮、シンプルだった料理が徐々に複雑な構成になってきている印象です。

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今回は、オススメのメニューをテイスティングポーションでいただきました。ちなみに、現在は、ランチのセットメニューが$55、ディナーのセットメニューが$155〜。

シャンパンは、小規模な作り手RM(レコルタン・マニピュラン)のピノ・ノワール100%のシャンパン、Resonance Brut。2年間の瓶内熟成を経た、しっかりとした味わいのシャンパンです。

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最近は、皿数の多いメニューがトレンドですが、Lukeシェフは、あえてコースの品数を減らしたのだそう。「その方が一皿一皿に集中してもらえ、より印象に残るはず」という考えがベースにあります。

まずは、昼夜問わず、訪れた人全員にサーブされるアミューズが2品。

牛肉のタルタル

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4月に訪れた時と同じですが、黒にんにくのスモークがなくなって、穏やかな印象に。

グラスフェッドビーフとオーストラリア和牛をミックスし、さらに全体をしっとりとさるために鹿児島和牛の脂をほんの少し加えたというタルタルに、白胡椒のサワークリーム、キャビアを載せて。薄くてカリカリのフィロペストリーの繊細な食感が、これから始まるコースへの期待を高めてくれます。

見た目も美しいLukuシェフの料理ですが、「自分の料理は、見た目か味か、 もしどちらかを取らなくてはいけないと言われれば、100%味を取る。そういうシェフの元でしか働いてこなかった」との言葉通り、その裏にはしっかりとした技術と料理の骨格があります。

もう一つのアミューズは、チリクラブの再解釈。

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カニのビスクとタピオカ粉で作った極薄いシェルは、キャラメル化した甘辛さがあり、そこにほんのりスパイスを効かせたアラスカキングクラブの身が入った、チリクラブのソースのエマルジョンを入れて。

パンは以前のバカナリアのサワードゥブレッドと比べると、やや軽い印象になりましたが、Lukeシェフの料理のスタイルにはこちらの方があっているのかもしれません。ちなみに、以前はキャロットピュレを練りこんだバターを使っていましたが、バターは軽く上に岩塩を散らして提供。バターの種類は、エシレバターを使っています。

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サービスは、Lukeシェフの奥様のKasiaさん。

最初の一品は、トマトが主役のPineapple Tomato

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一度も冷蔵せず運ばれてきたトマトは、12度で10日間ほど熟成させて、むっちりとした食感を引き出します。前回いただいた時は、同じトマトでも日本の桃太郎トマトでしたが、季節が変わったために、よりミネラル感があるフランス産のパイナップルトマトに変わりました。塩で有名なカマルグに近いフランス南部の町、Eyraguesから届いています。ベルガモットを効かせたミョウガ、玉ねぎ、キヌアのサラダ、ガスパチョのコンソメを注いで。私はLukeシェフの味の作りが体にすっと入る感じがしてとても好きなのですが、甘酸味のバランスと濃度は、ちょうど日本の三倍酢に近いせいもあるのかもしれないと感じました。そこに、ピュアな野菜のエッセンスが加わって、体の中から浄化されるような、とってもクリアな味を感じます。上には土佐酢のゼリー、そしてエルダーフラワーと水菜のエマルジョン、さらにはマリーゴールドの若芽と紫蘇の蕾があしらわれています。紫蘇の蕾にはほのかな苦味があり、普段食べる花紫蘇とはまた違う新鮮な驚きでした。

これから季節が変わると、イタリア・リグーリア州の火山灰土で育った黒トマトに変わるとか。そんな季節に合わせた変化も楽しみです。

柑橘類がとても好きだと言うシェフ、右手に文旦、左手には日向夏。全ての皿で、酸味とテクスチャーを意識している、と言います。

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続いては、Duck Foie Gras、フォワグラの一皿。

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鴨のフォワグラは5年前に農場まで足を運んだと言うRougie (ルジェ社)のもの。ソーテルヌワインと日向夏に一晩漬け込んでから、黒トリュフのスライスと共に布で包んで、さらにソーテルヌとトリュフの出汁で軽く茹でたトーションスタイル。それをそのまま出すのではなく、ごく薄いソーテルヌのゼリーを周りに一巻きしてあります。上には、丁寧に皮を剥いてからスライスした巨峰はソーテルヌに新鮮なぶどうの香りを与え、そしてカリッとした食感のフレッシュアーモンドを添えて。通常はフォワグラにはヘーゼルナッツを組み合わせるのがクラッシック。だけれども、もっとクリーンな印象のコンビネーションにしたいと季節の生のアーモンドと合わせています。

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ボルディエバターを使った、たっぷりの自家製ブリオッシュが、ピュアな味わいのフォワグラの味わいのボリューム感を押し上げます。細かい手仕事の一つ一つに、目にみえないところまで気を配り、高いクオリティのものを出したいという、Lukeシェフのこだわりを感じます。食べたときに、「なぜだかわからないけれど美味しい」と思うものの裏の細かい手間が、

「調味」だけでなく、「調理」の方にもこだわりが。

Wild Turbot

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寿司屋の魚の熟成方法を参考にしたと言うことで、骨つきのまま5日間寝かせて柔らかくしてから、大き目の塊の状態で、フライパンで焼き上げます。そして、魚の状態が落ち着いてから、アマルフィレモンとすだちの皮、タイムを少々かけて仕上げてあります。中はほんの少しだけ 半生の状態に仕上げていて、しっとりとした食感。イギリス産のシーフェンネル、オイスターリーフなどをあしらい、水菜のエマルジョンの下にはフェンネルのピュレ。タピオカは、昆布とワカメで取った出汁、熟成した醤油、寿司酢などを合わせたものに漬け込んであります。ソースは、丁寧に取ったtarbotの出汁に、たっぷりとシャンパンを入れたシャンパンブルーテと合わせて。

Dry-Aged Fillet of Beef

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個人的に、牧草肥育の牛が大好きだと言うLukeシェフ、牧草肥育の牛肉に、ワイルドアスパラガス、わさび、牛肉のジュに、ボーンマローとタイムを加えたもの。

ヨーロッパでの10年の経験から、色々な生産者との繋がりがあり、それが今も生きているのだとか。

もともとオーストラリア・パース出身なので、地理的に近いオーストラリアも大切な食材の産地。出身地である強みを生かして、年間500頭しか生産されていない、オーストラリアのブルーヒル・アンガスが提供される時もあるのだそう。

牛肉は英国・Devon産のルビーレッドという種類。海のそばで育つので、少し塩気を感じる味わい。シルキーで、キメの細かい食感。しっかりと草の香りがあります。基本的に牛肉は4週間サプライヤーでエイジングしてからキッチンで2週間ドライエイジングしています。試行錯誤の結果、6週間が一番いいエイジングの味になる、と考えているのだそう。

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オーブンで焼き上げた後、上にはボーンマローだけでなく、フォワグラ、トリュフを乗せて、少しロッシーニを思わせるような作り。小さなタイムの芽が全体を引き締めています。

ポテトは塩とバターでコンフィしてあり、もっちりとした良い食感。穏やかで酸がない、白マッシュルームとエリンギのエマルジョン、そしてセップ茸は、黒糖のような奥行きのある味わいのバルサミコ酢でしっかりとした酸を効かせて心地よい対比を表現しています。

端に乗った生わさびが、程よい抜け感を表現しています。

デザートはPistacio parfait

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ワイルドストロベリー、シチリア産のピスタチオを、アルコール度75〜80%の

ウォッカに漬け込んで、真空パックに入れて、加熱はせずに、1--2ヶ月おいておき、ピスタチオの香りがはっきりと出るようにするのだそう。

Amediのホワイトチョコをキャラメライズしたクリームの入った小さなボール、シェルはカリッとした食感のココナッツのオイルでコーティング。

ライム、カラマンシー、すだちのソルベを添えて。今が旬のワイルドストロベリー、そしてそのソースをかけていただきます。ワイルドストロベリーのほのかな苦味、フレッシュな果実感が、コクのあるピスタチオの印象を際立たせていました。

出来立ての味にこだわり、ディナーサービスの前に、全ての出汁を一から取ると言うLukeシェフ。この日も、ランチの後に鳥の出汁の仕込みが行われていました。

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旨味の多いフランス・ブレス産の鳥を使い、首肉と手羽をオーブンで焼き、バターで炒めた人参、シャロット、玉ねぎ、セロリ、そして丸鶏の白い出汁と共に煮込めば出来上がり。

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出汁の量がとても少量に見えたのですが、「詳しくは秘密」、とのことですが、水を混ぜずに、インフューズするようなやり方で煮出しているそうです。

去年12月にアジアは初めて来たと言うLukeシェフ、この先の食材の流れを知るのも仕事のうち。自分の店でエイジングなどの工程も行うため、あらかじめ料理の構成をしておくことが必要なため、仕事が終わった後は、必ず1時間店に残り、食材の入荷リストなどを見ながら、3ヶ月後のメニューはどんなものを作ろうか考えているそう。

繊細な食感を生み出す生地やソースや火入れ、一つ一つがきちんと美味しくて、小さなところに手を抜いていないことがよくわかります。

クリエイションのバラエティにも幅が出て、前回4月に訪れた時よりもさらにパワーアップした印象。

クラッシックなテクニックを生かしつつも、新しい時代の味覚に合うフレンチを作ろうとしている気鋭のシェフ、これからも注目のレストランです。

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■ The Kitchen at Bacchanalia (ザ・キッチン・アット・バカナリア)

営業時間:ランチ 12:00~14:30(火曜~金曜)、ディナー 18:00~22:30(月曜~土曜)、日曜休

住所:39 Hong Kong Street, Singapore 059678

電話: +65 9179 4552

アクセス:MRTクラークキー駅から徒歩2分ほど

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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