シンガポールに上陸! NYグッゲンハイム美術館展
街中のあちこちに、さりげなくアート作品が置いてあり、アートギャラリー等も多いシンガポール。そんなシンガポールで、今新しいアートスポットとして注目を集めているのが、ギルマンバラックス。元々はイギリスの歩兵宿舎のあった場所で、鳥や虫の声が響く、緑豊かな場所です。広大な敷地の中は、まだ建設中の所も多いのですが、草間彌生、村上隆、奈良美智など、名だたる日本人アーティストの作品も扱っているギャラリーが並び、お洒落なエリアに急成長中。
アートギャラリーだけでなく、ここにはなんと研究施設もあるのです。文化・芸術も産業のひとつとして捉えているシンガポールならではとも言えるでしょう、経済開発庁の支援で開発された、名門、南洋工科大学の研究センター、CCA(Centre for Contemporary Art)。
そして、このCCAに今、NYのグッゲンハイム美術館のモダンアート作品がやって来ているのです!
研究センターだけに、入場はなんと無料。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の創設者、グッゲンハイム氏は、モダンアートの収集家として知られています。NYの5番街にあるグッゲンハイム美術館には、当時の「モダン」アートだった、ピカソやマティス、シャガール等のコレクションから、現代の「モダン」アートまでが展示されています。今回シンガポールにやって来ているのは、現代のモダンアート作品です。
展示のテーマは、"NO COUNTRY"。「国境のない文化」を意味していると言います。アジアのキュレーターが東南アジア・南アジアのアーティストの作品を選んだ、という特別展です。
7月17日までの期間中、毎週木曜日の14:30〜15:30には、日本語ガイドグループによる無料のガイドツアー(こちらから要事前予約)が行われていると言う事で、私も初回のツアーにお邪魔して来ました。
ガイドの方は毎回違いますが、この日は優しい笑顔と親しみ易い語り口が印象的な、大川和子さんでした。
最初に目にしたのは、シンガポールのアーティスト、Tang Da Wu 氏の "Our Children"というタイトルの作品。
皆さんには、何に見えますか?
この日参加した皆さんからは、「テーブルと椅子」とか、「大人と子ども」など、色々な声がありましたが、これは「母ヤギの乳を飲む子ヤギ」なんだとか。そして、日本人としてどうしても気になるのは
上に乗っている「阿蘇りんどう牛乳」と日本語で書かれた牛乳瓶。どうやら、実際に売られている牛乳の瓶のようですが、なぜこの牛乳なのか?は、大川さんもよくわからないそうです。
「ヤギ」なのに「牛」乳なので、私は最初「人間でも、赤ちゃんを牛のミルクである粉ミルクで育てる、と言う事に関する何かのメッセージ?」なんて思っていたのですが、これは、中国オペラで、母ヤギの乳を飲む子ヤギを見て、宗教心に目覚める少年のシーンがあり、それからイメージをふくらませたのだとか。母と子の絆は、確かに「NO COUNTRY」ですよね。
そして、大川さんが遠くから、「あのベッド、どうですか?」と、指差したのが、こちらのベッド。
キラキラと輝いていて、まるでアラブの王様辺りが特注したベッドのようにも見えます。参加者の皆さんからも、「綺麗」とか、「でも寝心地は悪そう」とか、様々なコメントがありました。
近づいてみると・・・・・・
もうちょっと近づきましょうか
もうお分かりですね? なんと、カミソリの刃で出来ています。
タイトルは深い意味がありそうな "Love Bed"。
他の参加者の皆さんからも、「痛そう〜」と驚きの声があがります。
遠くから見ると綺麗だけど、寝ると大けがをしそう。「愛のベッド」というタイトルとダブルベッドの形状から、「遠目で見る分にはナイスカップルだけれど、二人でいる時は実は安らげない時間を過ごしている」とか「愛は傷つけ合うものだ」とか、そう言うマイナスの愛の側面を表している? 等と思っていたのですが、こちらを作ったバングラディシュのアーティスト、Tayeba Begum Lipi女史の意図はそんな甘いレベルのものではなく、女性の地位が低いバングラデシュでは、女性に対する虐待が日常的である事、医療が十分でない中、出産の際、赤ちゃんのへその緒を切るのにカミソリを使う事から、女性の立場の弱さ、その中でも生きて行く強さを表しているのだとか。
鎖のようにクリップでつながれたカミソリは、それでも綿々と続いて行く命を表しているのでしょうか。幾重にも映る影も美しい作品でした。
この他にも、宗教の対立をテーマにしたもの、紛争が続いてきたインドとパキスタンの国境の街を映したビデオ作品など、「NO COUNTRY」を実現する事が、アジアと言う一つのエリアだけを抜き出しても、人類の歴史の中で、いかに難しいものだったかを、逆に感じさせられるもありました。
こちらでは、計11カ国、16人のアーティストの作品が展示されているのですが、私が個人的に特に気になったのはフィリピンの Poklong Anading 氏の作品"Counter Acts"です。
よく見ると、人物の集合写真になっていて、一人一人が顔を隠すように鏡を持っています。
この写真を見て、まるで、撮影している人が、撮影されているようだと感じました。フラッシュを焚いて写真を撮られる瞬間、撮影者の顔は見えなくなります。それを、逆に「撮影されるってこんな気分なんだよ」と、返されているような。訪れた人が、まるで自分が撮影されているかのように感じる作品です。
カメラを回していると、「自分が見ている」と錯覚して、撮影される側も、撮影する「自分を見ている」双方向のコミュニケーションだ、という当然の事を忘れてしまいがち。でも、私が取材をする立場で感じるのは、そうではなく、実は撮影(取材)する側こそ「見られて」いるのだ、と言う事。インタビューなら、どこまで話をするのか、信用できる相手なのか。取材される側は、取材する側をとてもよく「見て」いるのだと実感します。
ハッとさせられると同時に、こういった視点の転換は好きだな、と思いました。
話が横道にそれましたが、色々と想像をふくらませる事が出来るのが、モダンアートの面白い所。
社会派のテーマでしたが、決して重い内容ではありませんので気軽にご参加いただけます。
参加者全員でやり取りをしながら、皆でその作品と過ごす時間と空間を共有する、楽しいツアーでした。
この丸い卵のようなものも、「NO COUNTRY」を表しています。答えは会場で!
<DATA>
■CCA(Centre for Contemporary Art)
開館時間:12:00~19:00 (金曜のみ〜21:00) 月曜休
住所:43 Malan Road,109443
電話: +65 6684 0998
アクセス:MRTラブラドール・パーク駅から徒歩12分
■グッゲンハイム美術館「NO COUNTRY」展
会期:〜2014年7月20日
日本語ガイドツアー:毎週木曜 14:30〜15:30 (要予約)
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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