秋篠寺の伎芸天像は麗しき東洋のミューズ
秋篠寺というと現在の入り口は駐車場に近い東門ですが、本来はこちらの南門が正式な入り口になります。こちらに回るのは遠回りだし、東門も風情があるのでわざわざ来る人はまばらですが、この参道を歩けば東西に塔が建っていたという、かつての創建当時の秋篠寺の迫力を感じることができるので、ぜひ一度こちらからも入ってみて頂きたいと思います。
秋篠寺の本堂は鎌倉時代の再建ですが、屋根は寄棟造(よせむねづくり)本瓦葺き。堂の周囲には縁などを設けることなく、内部は床を張らずに土間のまま全体に簡素な造りで、奈良時代に創建された当時の建築を思わせる様式と雰囲気を残しており、国宝に指定されています。なんとなく唐招提寺の金堂にも共通する感じもします。
本堂の中には御本尊の薬師如来坐像を守るように、日光菩薩、月光菩薩そして愛嬌のある十二神将像と、いわゆる薬師ファミリーが勢揃いしている他、地蔵菩薩、帝釈天、伎芸天などが安置されています。
中でも、とりわけ人気があるのがこちらの伎芸天(ぎげいてん)像
本堂の向かって左端に立たれて像高なんと205cmを超える大きさですが、まったく威圧感を与えることなく瞑想的な表情と美しく優雅な身のこなしで多くの人を魅了してきた像なのです。
この像は、頭部のみが奈良時代の脱活乾漆(だっかつかんしつ)という技法、体部は鎌倉時代の木造という異色の存在ですが、像全体としてもバランスがとれていてまったく違和感がないことが逆にすごいです。
伎芸天とは、仏教を守護する天部の一人で容姿端麗な女神とされていて、器楽の技芸が群を抜いていたため技芸修達、福徳円満の神とされ東洋のミューズと称されています。ミューズというのは音楽・舞踏・学術・文芸などを司るギリシャ神話の女神のことです。
伎芸天の彫像の例は日本では本像以外に見当たらないので、この像が果たして本当に伎芸天なのかどうかは専門家でも判断できませんが、像を目の前にすればそんなことはどうでもよくなってしまうほど魅力的です。
とても優しい眼差しでこちらに微笑んでくださるお顔は、もしかすると光仁天皇の妻であった井上皇后がモデルだったかもと想像しながらお参りするのもロマンがあって楽しいものです。
こちらは京都国立博物館の本館の正面の破風にあるレリーフですが、美術工芸の神とされる左の毘首羯磨(びしゅかつま)と向き合うように飾られているのも伎芸天ですので、機会があったらぜひご覧になってみてください。
本堂の西側にある大元堂というお堂には、これまたもの凄くインパクトのある仏像が安置されています。
それこそがこの明王最強の力を持つといわれる大元帥(だいげんすい)明王という像です。全国にさまざまな明王像がありますが、その中でも特に憤怒の表情に筋骨隆々の6本の腕に凄まじい迫力があります。こちらもまた大元帥明王の尊像としては唯一現存する像ということで大変貴重なものです。
もの静かな美しい伎芸天像と荒々しい大元帥明王像という対照的な仏像がおられるということも秋篠寺の魅力の一つなのかも知れません。
ただし大元帥明王像は秘仏でして、毎年6月6日のみの御開帳となります。その日限りの特別な御朱印も頂けることもあって、大変な賑わいとなりますので参拝に来られる方は時間に余裕をみてお越しください。
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