薬師寺はシルクロードの終着駅

公開日 : 2018年01月04日
最終更新 :
筆者 : 大向 雅
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薬師寺のある西ノ京という場所へは、電車、バス、自家用車と様々なルートで行くことができますが、一番わかりやすいのは電車です。近鉄・大和西大寺駅から二駅の西ノ京駅で下車して東へ行けば目の前にありますから、興福寺と並んで、最も駅から近い世界文化遺産だといえます。

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世界遺産薬師寺は、680年天武天皇が讃良(さらら)皇后(後の持統天皇)の病気平癒のために発願され造り始められたのですが、完成しないうちに天武天皇が崩御され、すっかり健康を回復された皇后がその意志を継いで持統天皇として即位され、伽藍(がらん)を完成されました。当初は現在の藤原京跡の近くに創建されましたが、平城京遷都にともない現在の西ノ京の地に移されました。

失火や兵火によって三重塔である国宝・東塔を残して、奈良時代の伽藍はすべて焼失してしまいましたが、1960年代より復興事業が開始。当時の高田好胤(たかだこういん)館長が中心となって写経による寄進を募ることで、創建期の姿を再現するべく白鳳伽藍(はくほうがらん)復興事業が進められてきました。

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1976年に金堂が再建されたのをはじめ、西塔(1981年)、中門、回廊の一部、大講堂(2003年)などが次々と再建されていき

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2017年には食堂(じきどう)も再建され、創建当時を思わせる伽藍が見事に再現されています。

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西塔が焼失して以来、約450年ものあいだ東塔が「顔」として薬師寺をささえてきたわけですが、1981年に西塔が再建されて創建当時の姿が蘇りました。しかし仲良く東西両塔が並んでいたのもつかの間、現在は「東塔」が解体修理に入ってしまい2020年までその姿は拝むことはできません。

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写真を見てもお分かりのように薬師寺の堂塔伽藍は本当に新しくて、少なからず古いものが多く残されている奈良の中では少し風情を感じられないと思われる観光客の方も実際にいらっしゃいます。しかし古い建物の方が必ずしも良いのでしょうか?

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東塔は確かに天平の建築ですからその存在価値は計り知れません、しかし長い年月の間に幾度も修復を受けてきたので、オリジナルの姿を留めているかというと、意外とそうでもないのです。例えば西塔に見える連子窓(れんじまど)は東塔では白い漆喰の壁ですし、長年にわたり重い瓦を支えてきた屋根の反りも西塔の方が断然美しいです。つまり創建当時の姿をとどめているのはむしろ新しく見えている伽藍の方なのかも知れません。そんな気持ちであらためて薬師寺を観ていただくと、かなり新鮮な気持ちで拝観していただけるかも知れません。

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金堂の中に祀られている薬師如来を挟むように、向かって右手に日光菩薩、左手に月光菩薩と並んでおられるのが御本尊の「薬師三尊」です。薬師如来は読んで字の如く病気やケガはもとより、様ざまな苦しみから救ってくださるお医者さんのような存在ですが、人間はいつ苦しみに見舞われるか分かりませんので日光菩薩、月光菩薩が交代で24時間受け付けて下さると解釈して頂くと一番分かりやすいです。

こちらの薬師三尊像は白鳳時代の金銅仏で国宝に指定されています。尊像としてはもちろんですが美術的観点からみても非常に秀麗な像として有名で、2008年に平城遷都1300年記念の一環で、東京国立博物館において開催された「国宝 薬師寺展」で日光月光両菩薩が展示された時も、記録的な来場者数でニュースになるほどでした。

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そして御本尊の後ろに回って台座の部分をじっくりと観て頂きますと、このように他ではお目にかかれない様々な文様や異人像が刻まれているいるのがお分かりいただけると思います。

写真に撮れませんでしたが上の框(かまち)にはギリシャの葡萄唐草文様、周囲にはペルシャ(現イラン)の蓮華模様、中にはインドの神像、下の框(かまち)には中国の四方神(東に清流、南に朱雀、西に白虎、北に玄武)が描かれています。)これは1300年以上前、すでにヨーロッパの文化がギリシャからペルシャ、インド、中国を経て薬師寺まで伝わってきていたこと、奈良という場所がシルクロードの終着地であることの証拠ともいえる歴史的資料としても一級品なのです。

この素晴らしい御本尊と台座を目の前で見ながら、悠久の歴史に思いをはせるのも薬師寺ならではの魅力の一つだと思います。

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