GAMBRINUS 老舗カフェ ガンブリヌス

公開日 : 2012年12月10日
最終更新 :

 ナポリに来た際、是非立ち寄ってほしいカフェテリアがあります。たくさんバールがある中でも、足を踏み入れた瞬間に、その格式高さと、歴史の重みを実感します。サンカルロ歌劇場の鼻の先、プレビシート広場に面して、王宮を望み、ハイソなキアイア通りの角っこにある気品漂うカフェ「Gambrinusガンブリヌス」。

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 イタリア統一運動が起こり、ガリバルディが軍隊を率いてイタリア王国を建国した1860年頃にガンブリヌスは歴史の幕を明けます。最高品質のドルチェやジェラート、バリスタをヨーロッパから集めて、ガンブリヌスはあっという間にナポリ市民の社交場となります。その後経営が悪化した時もありましたが、芸術絵画のガレリアを兼ねたことにより、息を吹き返します。1890年に改装オープンして以来、このサロンは芸術家の社交場となり、数々の作品を生み出すこととなります。

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 中でも詩人ガブリエレ・ダヌンツィオがナポリを訪れた際、ガンブリヌスやサロンマルゲリータに通いながら滞在を数カ月にも延ばして詩を書いたことは有名な話。ダヌンツィオが友人の詩人フェルディナンド・ルッソに挑発されて、唯一ナポリ方言で残した詩が、その後歌曲王トスティによってとてもかわいいカンツォーネとなりました。(A' vucchella)この時、ダヌンツォオはなんと大理石のテーブルの上に鉛筆で直接詩を書いたそうです。のちにナポリの誇るテノール、カルーゾによって録音が残されました。

 また、ナポリの人たちに大変愛されているカンツォーネ「Voce 'e notte」(夜の声)。

 これは私も大好きな曲ですが、内容はとても悲しいものです。この曲はなんと詩人エドアルド・ニコラルディが、最愛の彼女との結婚が相手の両親の反対でだめになったその日にガンブリヌスに行って書いたものなのです。その後彼女は年老いたお金持ちと結婚させられます。歌詞の内容は、夜、新婚夫婦の住むアパートの下で、忘れられない彼女を思って歌う、というもの。その切々とした虚しさが胸を打つのは、あまりにリアルな状況で詩を書いたからなのでしょう。そして、ガンブリヌスの華やかさがそれを煽ったのかもしれません。しかし、最近読んだ本で知ったのですが、この話にはまだ続きがありました。彼女は若くして未亡人となり、エドアルドと再婚して8人の子供を授かることとなるのです。切ないカンツォーネは現実の世界ではハッピーエンドに終わるというわけ。この歌がますます好きになりました。

 ガンブリヌスには、ナポリ国立音楽院で学んでいた偉大な作曲家や、サンカルロ劇場に足を運んでいた音楽家たちも頻繁に訪れています。

 他の庶民的なカフェに比べると値段は高いですし、愛想もよくありません。それは彼らの誇りからくるもので、そのナポリらしからぬ冷たさが鼻につくという人もいますが、私は仕方ないことのようにも思えます。時々贅沢にサロンの大理石の机に置かれた気品高いエスプレッソを飲みながら、かつての芸術家たちが愛したこの風景と絵画の中で、特別感に酔いしれるのも悪くありません。むしろ、いい音楽をするためのおまじないのような気すらしてきます。

 実は留学開始当時、ガンブリヌスの目の前のアパートに住んでいました。そして、母と寒い日のポンペイ遺跡巡りの帰りに寄ったことがありました。その時はダウンを着こんで歩きやすい登山のような格好をしていたのですが、とても冷たくあしらわれて嫌な思いをしました。そこで、翌日きれいな格好をしてもう一度訪れると、打って変わって丁寧な接客をされたことを覚えています。

 外見で判断するなんてヒドイとは思ったのですが、無理をしてでも格好つけてドアをくぐるべきカフェだったのかもしれません。そして、それが許されてしまうお店であり、その空気が好きな人が行けばいいのだと思います。母とおいしいケーキを食べながら、妙に二人でそう納得したのでした。

 ちなみに、カウンターでの立ち飲みエスプレッソは1ユーロ。実際はたいしたことないのです(笑)

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 映画のロケ地としてもよく使われているようです。アメリカ人とナポリっ子の掛け合いがおもしろいワンシーン。

 私は、音楽仲間とサンカルロ歌劇場にオペラを見に行く際に、毎回ガンブリヌスで一杯ひっかけています。

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