旧正月目前!ベトナムの歳時記×かまどの神様のお話

公開日 : 2018年02月07日
最終更新 :
筆者 : hanoco*

こんにちは!

日本ではいそいそと旧正月(春節)を迎える中華圏の皆様の来訪準備を進めているころかと思いますが、此処ベトナムも旧正月を盛大にお祝いする文化。

ベトナムでは旧正月のことを"tết=テト"と呼び、それぞれの家では準備が着々と進められております。

今日は年越しを控えたベトナム文化の中から、「かまどの神様」についてお話させていただきたいと思います。

「かまどの神様(=ベトナム語で"Ông Táo"」は、料理をするときに火を起こすあの「かまど(竃)」や台所を守る神様としてそれぞれの家に宿る中国発祥の神様だそう。

ベトナムでは、古来よりかまどを大切に守ってきました。

ちなみにベトナム語のÔngというのは、年配の男性や身分の高い方に使われる敬称で、この場合「様」と訳されるそうです。

ちなみに入門ベトナム語講座では、「おじいさん」と習う単語。

Táoは漢字にすると「竃」。

そう、かまどのことです。

更に音読みで「ソウ」と読む「竃」は「灶」とも書かれ、かまどの神様のことを「灶君」または「灶神」と書き、「灶君」をベトナム音読みして「Táo quân(タオクアン)」とも呼ぶそうですよ。

そしてこの「かまどの神様」を祀る日のことを、「オンタオの日(Ngày ông Táo)」、「オンコン・オンタオの日(Ngày ông Công ông Táo)」、「Lễ cúng ông táo về trời(オンタオが天に帰るお供えをする祭り)」などと呼び、人々は普段自宅のかまどに宿る神様を天におかえします。

天に帰られたかまどの神様は、天帝にその家の人たちの一年の振る舞いについて報告し、また大晦日にその家に戻ってくるそうです。

更に興味深いのは、この神様は一柱ではなく、男神二柱に女神一柱の三柱いらっしゃると言うこと。

まず知るべきはこのÔng Táoの物語でしょう。

ベトナム在住者御用達の情報サイト『ベトジョーライフ』さんの記事から抜粋させていただきますね。

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チョン・カオ(Trọng Cao)という男が、ティ・ニー(Thị Nhi)という妻を娶り長く一緒に暮らしていましたが、子供ができなかったため、次第に寂しい思いをしたり、言い争いをすることが多くなりました。ある日のこと、チョン・カオが怒りに任せてティ・ニーを叩いたところ、ティ・ニーは家を出て行ってしまいました。そして、ティ・ニーはファム・ラン(Phạm Lang)という男と出会い、その妻となりました。

しばらくしてチョン・カオの怒りも収まり、叩いたことを後悔して妻を捜しに行きましたが、見つかりません。探している間に持ち金がすっかりなくなってしまい、物乞いをして暮らすようになりました。物乞いをしながらある家を訪ねると、出てきた女性は探していた妻のティ・ニーでした。ティ・ニーもチョン・カオであることに気づき、家に招きいれてファム・ランの妻となったことを話し、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

そこへ、ファム・ランが帰ってきました。チョン・カオのことをどう説明するかに困ったティ・ニーは、チョン・カオに庭に積んである藁の中に隠れるよう言いました。すると、帰ってきたファム・ランは、畑の肥料を作るために、藁の山に火をつけました。しかし、チョン・カオはティ・ニーに迷惑をかけまいと、外に出ることなく焼け死んでしまいました。家から飛び出してきたティ・ニーは、チョン・カオが死んでしまったのを見て、自分も燃える藁の中に飛び込んで死んでしまいました。思いがけない妻の行動に驚いたファム・カオも、妻を死なせてしまった自分を責め、火の中に身を投じました。

3人の魂が天の上帝のもとに届くと、上帝は3人の情に心を動かされ、ファム・ランにかまどを守る役割を、チョン・カオに家を守る役割を、ティ・ニーに小商いを守る役割を与え、三位を合わせた「タオクアン(Táo Quân)」としたのでした。

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なんともコメントに窮するストーリー・・・。

突っ込みどころ満載の、この上なく悲惨なお話ではございますが、まぁそんな訳でベトナムの台所の神様は3人いらっしゃる訳です。

ちなみに日本でもガスコンロや竃の上で鍋を乗せる金属の道具を"五徳"などと呼びますが、ベトナムの五徳は基本三本爪(日本の五徳も三本爪が多いですわね。五徳の語源は別途ウィキペディア参照笑。※)。

そこにもÔng Táoが三柱になったルーツが見えそうです。

さて、そんなOng Táoを祭る日は何をするのでしょうか。

一度クリスマスモードになるとテトまでツリーも飾りも外さない...むしろ年中飾りっぱなしなんて店もザラにあるベトナムですが、一月中ばぐらいから、催事用品を扱うHang Ma通りや町の雑貨屋さんでは正月飾りと共にこのÔng Táoの日のためのお飾りやお供え物が並び始め、地元の人だけでなく外国人の目をも楽しませています。

▼年末の買い物客でごった返しなHang Ma通り

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▼まるで宝の山な正月飾り

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こちらはお正月用のキラキラ飾り。

年末から年初にかけて、桃の花や金柑などの柑橘系の木と共に飾ります。

▼Ông Táoの衣装

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▼自転車おばちゃんも

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▼天秤おばちゃんも

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▼バイクなおっさんも

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この時期、ベトナムのあちらこちらでÔng Táoの紙装束をぶら下げた売り子さんを見かけるようになります。

お衣装は帽子と衣、靴でワンセット。

人気のこのセットは結構大きくて高価だそうで、紙に絵を描いただけのお手軽セットを使う方も多いそうです。

先述の通り、ベトナムではÔng Táoの三人の神様が家族を見守り、良い行いによって幸福を授けてくれると信じられています。

毎年旧暦の12月23日はÔng Táoがが天に帰る日。

普段家の台所に住みついている神様が 、その1年間の諸事(人間の善悪やら言動やら)を天帝に報告する日です。

我が家の大切な神様を天にお送りするため、新しいÔng Táoの装束やらお車代りの乗り物、貢物なんぞをお供えして「ちゃんと良いこと報告してくださいね☆」とお見送りするわけです。

賄賂文化がここにも垣間見えちゃった気がします。

以前、ハノイを拠点に街並みや史跡を案内してくれるグループ"Heritage(ヘリテージ)"のÔng Táoイベントに参加させていただいたのですが、そこでもこの衣装セットが飾られていました。

(残念ながら、貴重な画像や映像資料はその直後に遭ってしまった盗難事件により紛失しましたが...)

そこではちゃんと3人分セットのものが飾られていましたが著名な専門家のおじいさんが爆弾発言。

「あれ、これ間違っていますね...」

何が違うのだろう?

色だって、ちゃんと女性らしいピンクも入ってるのに...と主催者も参加者もザワザワ。

そんな私たちを笑顔で見渡しながら、

「形が違うよ」

とのこと。

なるほど、3つあれば良いという訳ではない...たしかに女神様が男性用の型を着ていたらちょっと変かも。

恐らく、儀式用に形式化されてきた部分もあるのでしょう。本来であれば、帽子の形などが違うらしいのですが、今のハノイでそのような伝統的なタイプは見つけられませんでした。

またハノイのローカル市場を歩いていると、先ほどのお衣装とは別にいつも見かけない鯉やら金魚やらの桶が目に付きます。

それは、神様が天に帰るためにお乗りになる「お車」。

ホーチミンなど南部では鷲 鷺(サギ)と馬とされているそう。

馬は地上で一番速く走り、鷺は速く飛ぶと言われていることから南部ではこの組み合わせらしいのですが、ハノイは赤い鯉でございます。

ベトナムには龍伝説があり、鯉は滝を登って龍に為るという言い伝えもあります。

▼こんな感じで売られています

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▼まるで金魚すくい

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Ong Táoは三柱。

だから、ハノイでは三尾の鯉が基本のワンセットです。

お一人様一台でございます。

Ong Táo日になりますと、あらかじめ自宅の祭壇にお供えしていた生きた鯉を正午までに湖や川に放すのが習わし。

それぞれの家でお供えしていた冥器を燃やし、灰と共に鯉を放つそうです(灰まで流しているのは見たことないんですが)。

南部では馬や鷺の描かれた紙の冥器を燃やすだけらしいのですが、ハノイでは生きた赤い鯉(金魚も可)を使うのが特徴らしいですね。

さて、このこの鯉やら金魚やらを流す儀式・・・

いかにも神秘的で恭しい雰囲気を醸し出してくれるかと思いきや、現実はもう見事に「やっつけ感」満載だったりします。

そもそも、水が汚い。

洗面器に入れた金魚を勢いよく湖に放り投げる。

洗面器ごと、もしくはビニール袋ごと投げる。

持ってきたビニール袋もその辺に放置。

鯉のコンディションに無関心。

死にかけ上等、無問題。

鯉を放した直ぐ隣で釣りをしている。

ある意味ベトナム人の一面を物語るには最強な光景なのですが。。

▼正午直前、片手金魚に湖に駆け込む人たち

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▼ポイッと投げ入れます

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鯉を投げ入れた人々は、何事もなかったかのようにその場を立ち去り、かまどの神様の儀式終了(笑)

さぁ、この儀式が済めば、いよいよテトまであと僅か。

年越し準備が本格化し、大掃除に家の飾り付けに正月料理の準備にと、大忙しな年末の1週間の始まりでございます。

このかまどの神様の日、今年は太陽暦2月8日。

来たるべき新年は2月16日です。

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